2012 Fiscal Year Research-status Report
差分化学反応による特定合金成分の選択除去と骨組織結合化
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24650280
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
尾坂 明義 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (20033409)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 化学処理 / 液相堆積法 / 酸化チタン層 / アパタイト |
Research Abstract |
チタン合金90Ti-6Al-4V(以下Ti64)中のAl成分は骨組織との直接結合が完全に阻害する。そこで,合金表面をH3BO3 存在下でTiF62-錯イオン溶液に曝せば, TiF62- + Al (合金) + H2O → TiO2 + AlF63- などの表面反応で,表面は水和酸化チタン層で覆われ,Alは差分的に溶液中に取り込まれる。この水和酸化チタン層は体液中ではアパタイトを自発的に析出させ, Ti64合金は強力に骨組織に固定される。 この目的に沿って,岡山大学と産業総合技術研究所との包括研究協定の枠組みの中で,同中部センター・テイラードリキッド集積グループの開発した,液相堆積(LPD)の処方を適用し検討を重ねた。その結果, Ti64合金は50°Cの処理溶液の濃度が濃い場合には処理溶液[NH4TiF6 + H3BO3]による多大の浸蝕反応を受け,インプラントとしての機能を失った。 そこで,溶液濃度を[0.05M NH4TiF6 + 0.15 M H3BO3]とすれば侵蝕は抑制されて,ほぼ均一な膜が生成できた。このLPD型Ti64合金試料を小久保の擬似体液(SBF)に浸漬したところ,残念ながらアパタイトの自発析出は観察されなかった。これは, AlF63-錯体の生成反応は完全(平衡定数 = ∞)でなく,いくらかのAl(III)が酸化チタン膜層に残留するためと考察した。 ところで,インプラントは押し込み固定され,表面の凹凸によるきわめて微小な隙間を介して骨と接触する。このような状況を人為的にしつらえる,すなわちLPD処理したTi64合金試料を500°Cで1時間焼成し表面にルチルとアナターゼの混合膜を生成させたHT500試料と,0.3mmの隙間をもって固定し,SBFに浸漬した。その結果,両試料板にアパタイトの析出を認めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
医用インプラントあるいは歯科用歯根として頻用されるチタン合金90Ti-6Al-4V (Ti64合金)表面の酸化チタン層内のAl含有率を「差分化学反応」的に激減させ,同合金に骨組織結合性を付与することを目的として検討を進めた。産業総合技術研究所中部センター内グループの開発した液相堆積法を援用したところ,処理溶液濃度および温度を低く保てば,ほぼ均質な水和酸化チタン被膜を作成できることを明らかにした。しかし,この酸化膜は,小久保の擬似体液中でアパタイトの自発析出を誘起せず,このままでは骨結合性は期待できないと結論せざるを得なかった。この原因は合金中のAl成分が完全には副生成物AlF63-錯体として系外に取り出せず,その一部が膜内に残留するためと,推論した。 しかし,LPD試料と酸化処理試料(HT500)とを,実際のインプラント装着環境と類似の隙間を介して固定し,小久保の疑似体液環境下に置いたところ,両試料内部表面にアパタイトの自発析出を観察した。組あわせたHT500の真の役割はまだ確たる解釈はないが,一つの可能性として,同焼成試料よりきわめて微量のTi(IV)が隙間内に溶解,両試料表面に再析出したことが,考えられる。このことは,僅かな凹凸/溝加工した試料にLPD処理を施し,その凹み部分への水和酸化チタンコロイドの塗布などの簡便な追加処理で,骨結合性を付与できるものと,期待させる成果である。さらに,医用分野で応用例の多い多孔質純チタンなどにもこのLPD法は適用できる可能性がある。 なお,これまでの成果は,産業総合技術研究所グループとの共同研究論文として,現在国際的雑誌への投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の結果から,安定で均一な水和酸化チタン層を生成させる方法はほぼ確立できた。しかし,そのチタン層のアパタイト生成力は小さく,残留Al錯体,処理溶液成分イオン・錯イオンの残留物などの抑制効果の可能性がある。また,酸化チタンに限らず,体液中でアパタイトの自発析出を誘起するどのような材質でも,結晶化の起点となる部位=結晶核生成点の数は,表面の原子数に比較して,走査型電顕で計数できる程にきわめて少数(~8個/(10µm)2)である。そこでまず,本年度では 1)カルシウム塩溶液での洗浄など,酸化チタン膜内のAl成分の除去,およびCa(II)の侵入によるフッ化物イオンの無害化処理。これによる核生成点の減数抑制の効果の確認。また,紫外線照射による核生成点の増加効果を確認する。 2)LPD処理した試料同士を0.3mmの隙間で固定し,小久保の擬似体液中におけるアパタイト自発析出の確認。もしこれが成功すれば,微細溝加工だけで骨結合性が付与できる。報告者らのGRAPE®技術(Nakao他, J. Ceram. Soc. Japan, 118 [6] 483-486 (2010))の適用が可能となる。 3)今回の展開型として,3次元的貫通多孔性の金属フォームに対してこのLPD手法を適用する。 4)これまでを総合的に考察して,Ti64合金の医用応用範囲をさらに拡大する手法を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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