2012 Fiscal Year Research-status Report
予測制御とフィードバック制御の評価に基づいた神経疾患治療ナビゲーターシステム
Project/Area Number |
24650304
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
李 鍾昊 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 主任研究員 (40425682)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 検査・診断システム / 神経疾患治療補助システム |
Research Abstract |
本研究では、運動機能障害を伴う神経疾患における複雑な脳内の病態を運動制御の観点からわかりやすく評価できる「神経疾患治療補助システム」の構築を目指している。特に我々の開発した手首運動による定量的運動機能評価システムが神経疾患治療補助システムとして国内で認められ、国内特許として登録でき(登録日:平成24年12月14日、特許登録番号:特許第5154558)、さらに我々が独自に開発した「脳内の予測制御器とフィードバック制御器を定量的に評価する方法」も神経疾患の病態解明や評価に役に立つことを海外でも認められ、米国特許の査定が成立できた(査定日:平成25年2月7日、番号付与待ち)。 このように国内及び海外で「神経疾患治療補助システム」として認めてもらった手首運動機能評価システムを協力病院(東京都立神経病院と東京医科大学八王子医療センター、関東中央病院)に普及し、初年度である24年度にはパーキンソン病や小脳変性症の神経疾患の病態を運動制御の観点から分析する研究を行った。特に小脳変性症(22名)の指標追跡運動を予測制御とフィードバック制御の観点から分析した結果、予測制御の精度は小脳疾患の重症度に応じて悪くなっていることに対し、フィードバック制御に関しては重症になってからフィードバック制御の精度も悪くなっていることから、小脳が予測制御により深く関係していることが明らかになり、この研究内容を論文投稿準備中である。 また、手首運動において筋活動の機能的な特徴付けが可能な手首関節モデルを提案し、そのモデルを用いて小脳変性症患者の追跡運動を分析した結果、小脳患者の筋活動に速度制御よりも位置制御の成分が多く含まれ、スムーズなトラッキング運動ができなかったことが初めて明らかになり、その研究内容をCerebellum論文誌に報告した(Lee et al. 2012)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である24年度には、予測制御とフィードバック制御に基づいてパーキンソン病や小脳変性症の神経疾患の進行度に対する特徴を追跡し、「疾患治療用データベース」に必要な症例を集めている。これまで研究の協力病院である東京都立神経病院と東京医科大学八王子医療センター、関東中央病院の入院患者の協力を得て、22名の小脳疾患患者と50名のパーキンソン病患者から手首関節による指標追跡運動を行い、異なる周波数領域から予測制御とフィードバック制御の成分を分離して分析し、「神経疾患治療補助システム」のデータベースとして活用している。特にパーキンソン病患者ではこの並列制御器(予測制御とフィードバック制御)だけでは病態の特徴がはっきり抽出できなかったが、さらに3Hz以上の不随意運動領域(振戦領域)をもう一つの制御領域として分析に加えて分析した結果、6Hz前後(4-8Hz)の小刻みな階段状運動の定量的計測によりパーキンソン病患者の病態をより高精度で評価できるようになった。 また、神経疾患の様々な治療効果を2つの並列制御器(予測制御とフィードバック制御)に基づいて追跡する研究も進めている。その例として、東京医科大学八王子医療センターとの共同研究として、免疫性小脳疾患に対するIVIg薬物治療(イムノグロブリンの点滴静注療法)の効果を予測制御器とフィードバック制御器に基づいて運動制御の観点から分析した結果、従来の評価方法であるICARS(運動失調の国際評価尺度)ではその治療効果が感知できなかったが、我々の評価方法を用いて運動制御観点(予測制御とフィードバック制御)から分かりやすく評価ができ、現在その症例を増やしている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後各疾患の進行度に対する特徴や様々な治療効果を2つの並列制御器(予測制御器とフィードバック制御器)に基づいて追跡し、「疾患治療用データベース」に必要な症例をより増やす予定である。特に今後なるべく多くの患者からデータを取得する必要があり、連携先のスタッフにデータ取得を委任することが必須となる。そのため、2年目である25年度には連携先の病院スタッフが独自にデータを取得できるように指導する予定であり、定期的に連携医療機関を訪問し、スタッフの技量と記録システムのチェックを行う。さらに記録した患者データに対する分析プログラムも加え、連携先の病院スタッフが自らデータの記録や分析もできる体制を備えるようにする。 また、これまで手首関節による指標追跡運動を行う際、その際記録した筋電信号と動き情報の異なる周波数領域から予測制御とフィードバック制御の成分を分離して分析してきたが、最近は動き情報だけからこの2つの制御器を評価できる方法が確立できた。特に筋電信号を記録するには、電極の設置や正規化のための実験などが被験者や実験者の両方とも負担になっていたが、これから動きのみの記録にすることにより実験時間が半分になるので、より多くの患者からデータ記録ができると期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は協力病院である東京都立神経病院と東京医科大学八王子医療センター、関東中央病院の入院患者の協力を得て行われる連携研究であり、より多くの患者さんから随時記録を連携先の病院スタッフが独自にできるように各病院内の検査室に記録システムを常備する必要がある。特に本研究で行われる手首運動の実験タスクは、2台のパソコンを一式としてNational Instruments社のLabVIEWという開発環境から実行されるので、25年度の研究費を使って実験用のパソコン2台やLabVIEWプログラム、データ収集用のボード(NI PCIe-6320)を購入する予定であり、大量な患者データを保存するためのハードディスクドライブも購入する予定である。さらに、被験者はそれぞれ前腕の長さや太さが違うので、前腕の置く位置を調節できる前腕の支持台(製作:有限会社豊洋電子精機)を購入する予定である。 その以外には研究成果を学会に発表するための費用や、英文論文校閲代、論文印刷代として25年度の研究費を使用する予定である。
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Research Products
(7 results)