2012 Fiscal Year Research-status Report
上肢運動学習に関する遺伝子、神経成長因子、パフォーマンスの統合的研究
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24650329
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
牛場 潤一 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (00383985)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | リハビリテーション / 神経科学 / 遺伝子 / 医療・福祉 / 運動学習 |
Research Abstract |
当初計画通り、平成24年度では被験者取り込み基準の厳格化、個人情報保護方法の確立、被験者同意文書の整備をおこなって倫理申請をおこない、次年度以降の研究実施に向けた整備をおこなった。審査は継続中であり、審査コメントに対する修正作業をおこなっているが、進捗から考えて次年度前半には承認が取得でき、本実験を実施できるものと考えている。口腔粘膜からDNAを抽出し、BDNF遺伝子の機能多型をPCR法で評価するための一連の測定キットの整備と機器操作講習に関しては予定通り終了した。末梢血清中のBNDF量をマイクロアレイで定量する手法についても、採血に必要な医療従事者のパート雇用体制の整備および機器操作講習が予定通り終了した。以上により、研究が承認され次第、速やかに実験を実施できる環境が整備された。 一方、Rotary Pursuit Test(RPT) 前後の神経系機能再構築を評価するための予備的検討を健常者6名で実施した。複数のRPT機器を試用したが、取得できる行動指標に制限があり、詳細な脳内モデルブロックの個別的評価が困難なことから、水平面上の前方位置に提示されたターゲットへ指先をあわせる上肢到達運動課題を採用することとした。実験の結果、運動実行中の誤差情報に基づいてオンライン誤差修正をおこないながら学習する群(N=3)と、毎回の運動遂行結果から次の運動出力を修正する群(N=3)に大別された。神経系の評価には、経頭蓋磁気刺激法による一次運動野の機能マッピングを予定していたが、被験者の疲労が著しかったことから、磁気共鳴画像法による全脳的な脳構造変化の探索に変更した。計算解剖学的解析の結果、オンライン誤差修正群でのみ、海馬、小脳、一次運動野、頭頂連合野、視覚野での有意な体積増加が認められ、一ヶ月後でもその構造変化は強く保存されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における挑戦的な課題設定としては、これまでの電気生理学的研究に対して、遺伝子検査を導入する点(1)、末梢血中の神経成長因子検査を導入する点(2)、および運動パフォーマンス評価を統合する点(3)にある。これによって、生命の階層性を統合的に論じる素地を創出し、最終的には、片麻痺上肢の運動機能回復に関わるメカニズムを階層的観点から整理して、次代のリハビリテーション神経科学研究を形作ることを目指している。 本年度は、上述(1)~(3)の挑戦的課題を研究代表者自身が主体的に研究するために、倫理申請の実施、予備的検討を通じた実験手技の獲得、実験プロトコルの最終決定を進めた。挑戦的課題には未経験の検討項目が数多く、通常の研究よりも多くの試行錯誤を必要としたが、それを当初から見込んで実験計画を立てていたために、進捗としては概ね予定通りであったと考えている。実験課題の調整において大きな変更をおこなった点としては、行動評価をRotary Pursuit Testから水平面上肢到達運動に変更した部分と、経頭蓋磁気刺激法による一次運動野の機能マッピングを、磁気共鳴画像法を用いた計算解剖学的形態評価に変更した部分である。予備実験時に被験者負担が大きすぎたことから導入した変更点であったが、結果的には、視覚運動課題における脳内モデルブロック毎の状態定量が詳細におこなえるようになって解析内容がより精緻になったこと、被験者ごとに学習過程が異なることを見いだせたこと、およびその学習過程依存的な脳の可塑的形態変化が見いだせたことから、これらの実験プロトコル変更は当初想定を上回る成果に結びついたと判断している。運動学習課題によって脳の可塑的変化が経時的に生じることを示した本結果は極めてユニークであり、来年度以降に実施予定の遺伝子および神経成長因子検査を交えた検討には更なる期待が持てる状況となった。
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Strategy for Future Research Activity |
実験プロトコルが平成24年度までに完全に確立したため、倫理委員会からの遺伝子検査にかかる研究の承認が得られ次第、本実験を実施することとする。また、脳卒中患者での検討に関しても、予定通り実施する。脳卒中片麻痺症例に関しては、上肢運動機能スケールSIAS-M が2乃至3 を想定し、単日での運動学習実験を30~120分程度実施し、機能的磁気共鳴画像による脳形態変化を運動訓練前後でおこなう。また、運動訓練前後において末梢血を非運動側上肢肘部から採血し、血清を単離した後、BDNF 抗体を提示したマイクロアレイを用いてELISA 法でBDNF量を定量する。口腔粘膜からDNA を抽出し、PCR 法によりBDNF 遺伝子の機能多型を同定して、脳の可塑的変化量および運動パフォーマンス評価項目との相関を分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、遺伝子検査および末梢血血清検査にかかる試薬などの消耗品(200,000円)、末梢血採血のための非常勤医療従事者に対する謝金(200,000円)、および国際会議における成果報告のための海外渡航費(200,000円)を計画している。
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