2012 Fiscal Year Research-status Report
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24650361
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Research Institution | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
Principal Investigator |
河島 則天 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 運動機能系障害研究部, 室長 (30392195)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 身体性 / 義手 / 切断 / 幻肢 / 幻肢痛 |
Research Abstract |
本研究では、これまでの幻肢・幻肢痛の発現機序に関する知見、道具の身体化や身体性の拡張に関する知見を科学的基盤として、新しいコンセプトに基づく義手の製作と幻肢痛緩和のためのリハビリテーションアプローチ開発を目指す。具体的には、リアリティのある外観と指の自然な動きが可能なパッシブ骨格を備えた装飾義手を製作し、義手の身体化を促すためのアプローチとして、切断端に存在する損失肢のbody representationを利用した義手への感覚情報転移、指尖タッピングによる知覚聴覚-運動系の引き込み、self-touchがもたらす多重身体表象を利用した感覚励起などの手法の可能性を検証する。 本年度は外観のみならず、質感や爪の硬質感など、細部にわたって高いリアリティを備え、さらに関節の他動的動作を可能にするパッシブ骨格を備えた装飾義手を製作した。前腕切断者を対象として義手の装着による幻肢や幻肢痛の程度がどのように変化するのかを検証するための計測を行ったところ、義手のアウェアネスの増加とともに、義手への接触、痛みを想起させる視覚的刺激によって発汗反応が増加するという興味深い結果を得た。これらの結果は、義手が身体の一部として取り込まれたこと、すなわち「義手の身体化」を裏付ける結果と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、リアリティの高い義手の製作を行うことができ、義手の身体化を促す要素としてのリアリティについて興味深い知見を得ることができた。幻肢の特性に関する研究では、胸像視認による幻肢のアウェアネスについての実験データが計14名より得られた。従来の研究報告では、鏡像を用いた損失肢に関する視覚情報提示によって幻肢の認識が高まるという記述が多いが、患者によっては鏡像視認によって幻肢のアウェアネスに停滞が生じる者も認められた。つまり、鏡像視認の影響は、幻肢の状態によって変化し、鏡像なしでも幻肢の動作が可能である場合には実際の動作と視覚情報の不一致が生じることによって運動の鮮明さや幻肢そのもののアウェアネスの減少を引き越すものと考えられる。一方、鏡なしの状態では幻肢の動作に困難が伴う症例では、複数例で鏡像視認による顕著な幻肢のアウェアネスおよび動作範囲の増加が確認され、さらに幻肢痛の減少が生じる症例を複数観察した。これらの結果はPLoS One誌に投稿、現在revise版提出の準備中である。また、心理物理的手法による幻肢の客観化についての研究も現在論文を寄稿中であり、25年度前半に国際誌に投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、症例数を増やすとともに、2名の切断者をモニタとして日常生活での長期的な義手による効果を検証することに主眼を置く。すなわち、製作した義手を用いて義手の身体化を促すための以下のアプローチの有用性を検証する実験を行う。①切断端に存在する損失肢のbody representationを利用した義手への感覚情報転移、②指尖タッピングによる知覚聴覚-運動系の引き込み、③self-touchがもたらす多重身体表象を利用した感覚励起。上記手法の効果について、被験者の内省記録や質問法、心理物理的手法、切断端の筋活動計測や発汗反応などの生理学的計測、脳機能計測などの観点から、幻肢感覚と幻肢痛について包括的に検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
可能な限り、義手製作費に充てることを計画しているが、被験者謝金、実験消耗品、学会発表に際しての旅費などとの兼ね合いで、2本の新規作成にとどめる必要が想定される。
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