2012 Fiscal Year Research-status Report
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24650367
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
荒牧 勇 中京大学, スポーツ科学部, 准教授 (40414023)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | スポーツと脳 / 脳構造 / MRI / スポーツ競技特性 |
Research Abstract |
スポーツと脳の形態・構造にはどんな関係があるだろうか? 近年、脳の形態や構造が運動・認知スキルや気質・性格と関連すること、また、「経験」が脳構造を変化させることが明らかになりつつあるが、スポーツと脳構造の関係は未解明な点が多い。 スポーツには競技種目ごとに必要とされる運動機能・認知機能・社会コミュニケーション機能・気質・性格などにそれぞれの特性がある。このため、スポーツをする人は、その競技の特性に必要な脳機能に関連する脳部位の形態や構造に特徴がある可能性がある。そこで本研究は、(1)競技種目間の脳形態・構造の比較、(2)競技種目内での技術の優劣と関連する脳形態・構造を調べる(3)スポーツのトレーニングにより変化する脳形態・構造を調べることを目的とする。 今年度は主に競技種目間の脳形態・構造の比較をするために、陸上競技の短距離選手と長距離選手の脳構造を比較した。陸上競技長距離選手17名と短距離選手21名に対して、行動の動機づけ特性を測る行動抑制系・賦活系質問紙調査と、MRIによるT1強調脳解剖画像を計測した。脳解剖画像は、脳灰白質の局所的な体積・密度を調べるVoxel Based Morphometryの手法で解析した。 行動の動機づけ特性を測る質問紙による調査の結果、長距離選手群は短距離選手群より、損害回避による動機づけ傾向が有意に高かった。また、脳解剖画像の解析結果から、長距離選手群は短距離選手群よりも損害回避の行動選択に関わる大脳基底核尾状核の体積・密度が大きいことがわかった。 本研究の結果から、陸上長距離選手は、短距離選手と比較して、損害回避を行動の動機づけとする傾向が高く、その傾向は損害回避の選択に機能する大脳基底核尾状核の構造的特徴に支えられている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、スポーツと脳構造の関係を明らかにするために、(1)競技種目間の脳形態・構造の比較、(2)競技種目内での技術の優劣と関連する脳形態・構造を調べること、(3)スポーツのトレーニングにより変化する脳形態・構造を調べることである。今年度に達成した内容は以下のとおりであり、おおむね順調に進展している。 目的の(1)競技種目間の脳形態・構造の比較のため、陸上競技の短距離走選手群と長距離走選手群の脳解剖データを計測し、その差を解析した。その結果、長距離走選手群のほうが短距離選手群よりも大脳基底核尾状核の灰白質の密度・体積が大きいという結果が得られた。さらに、この差の機能的な理由を考察するために、行動抑制系・賦活系質問紙調査を合わせて行い、長距離選手群は短距離選手群よりも損害回避を行動の動機付けとする傾向が強いことを確認した。大脳基底核の尾状核は損害回避のための行動選択に重要な役割を果たす部位とされており、質問紙調査の結果と整合した。以上より、短距離選手と長距離選手の脳構造には、行動の動機付けの要因の差が表れることが明らかとなり、スポーツの競技ごとに特徴的な脳構造があるという本研究の仮説は強化された。 目的の(2)競技種目内での技術の優劣と関連する脳形態・構造を調べるため、大学ハンドボール選手10名に対して、脳解剖画像と、試合中のミスの数を計測した。このミスの数と脳解剖画像の関係を次年度に解析する。 目的の(3)スポーツのトレーニングにより変化する脳形態・構造を調べる競技内の技量の優劣と関連する脳形態・構造を明らかにするために、サッカーのリフティングトレーニングを1ヶ月間、週3回、一回につき15分間行ない、トレーニング期間前後の脳解剖画像を計測した。データは現在解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は今年度に計測したデータを解析し、学会発表、論文投稿をおこなう。また、新たな研究項目についてデータ計測と解析、論文へのまとめをおこなう。 次年度新たに追加する研究項目は以下の通りである。 1.体操競技、格闘技を対象とした脳解剖データの計測と解析 体操競技を個人被評価競技、格闘技を個人対人競技として今年度のデータ(陸上競技選手(個人レース競技)とハンドボール選手(集団球技))と合わせて、競技特性を考慮した解析をおこなう。 2.様々な競技種目のチャンピオン経験者、オリンピック出場経験者の脳解剖画像を計測し、スポーツエリートに共通する形態・構造の特徴を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度未使用分の358,235円を次年度の直接経費1,000,000円と合わせて使用する。 今年度の未使用分が生じた主な理由は、研究成果の社会への情報発信のために業者に依頼するwebページ作成(250,000円)が遅れたことと、今年度に予定していた体操競技集団20名程度のデータ計測が次年度に予定変更になったため、その被験者謝金100,000円程度が未使用となったためである。 この今年度未使用分358,235円をwebページ作成(258,235円)と、体操競技集団20名のデータ計測の被験者謝金(100,000円)として次年度に使用する。 また、次年度直接経費1,000,000円の内訳として、国内学会発表4件(東京2件、滋賀2件)の旅費参加費として300,000円、実験被験者謝金として300,000円、データ計測・解析のための人件費として300,000円、英語論文構成費用として100,000円の使用を計画している。
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Research Products
(2 results)