2012 Fiscal Year Research-status Report
教育学における身体教育の位置づけ:二つの「身体」(生体・媒体)に基づく歴史的検討
Project/Area Number |
24650375
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中野 浩一 日本大学, 工学部, 准教授 (40579728)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 身体教育 / ペスタロッチ / ヘルバルト / 森有礼 / 兵式体操 / 身体の規律化 |
Research Abstract |
本研究は、身体教育と教育学との関係を歴史的に検討し、過去における位置づけの相違と今日的問題点について明らかにするものである。特に、二つの「身体」(生体・媒体)という、先行研究では行われていない観点を用い、新たな知見を得ることを目的とする。 平成24年度は、日本の教育学に影響を与えたペスタロッチ(J.H.Pestalozzi)とヘルバルト(J.H.Herbart)に関し、彼らの原書の検討から、なぜペスタロッチ教育学において身体教育が不可欠だったのか、なぜヘルバルト教育学において身体教育を否定して教育が可能だったのかについて明らかにする計画であった。 ペスタロッチに関しては、以下の知見が得られた。①ペスタロッチ教育学は、知・徳・体の育成を目的とする原則(目的の原則)と共に、知・徳・体を媒体として他の領域を育成する原則(手段の原則)から成り立っている。したがって、ペスタロッチは、教育理論において恣意的に二重構造を採用しており、その構造は教育実践にも反映されている。②二重構造に基づき、身体教育の場合、目的の原則に基づく「身体(生体)の発達を目的とする教育」と、手段の原則に基づく「身体(媒体)を手段とした知・徳の教育」という二つの概念が認められる。③さらに、知性教育と徳性教育においても、目的の原則に基づく知・徳の育成の他、手段の原則に基づき、「身体(生体)の発達を目的とする教育」が位置づけられている。したがって、ペスタロッチ教育学では、知・徳・体の全ての領域において、身体教育が位置づけられている。二重構造を採ったのは、知・徳・体の三つを結びつけ、調和させるためである。ただし、身体と知性を徳性に従属させたのは、それらを低く見なしたのではなく、愛や信頼という徳性こそが調和の原則にふさわしかったからである。 このように、ペスタロッチ教育学にとって身体教育が構造上、不可欠であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度は、ペスタロッチとヘルバルトの原書に関し、科研費を活用して、原書の全集や原書のコピーを入手し、ほぼ、そろえることができた。そして、ペスタロッチの身体教育の位置づけに関し、教育史学会で下記の表題で発表を行い、論文を投稿した。 発表標題:ペスタロッチ教育学における身体教育の位置づけ:二つの『身体』(生体・媒体)に基づく検討 しかし、ヘルバルトの検討に関しては、考察を行うことができなかった。ペスタロッチに関する資料が予想以上に集まり、資料分析に時間がかかったためである。 この遅れの代わりに、平成26年度に予定していた部分、すなわち、ペスタロッチの日本への影響に関する部分を、勤務校の学術研究報告会において、下記の表題で発表した。論文にする余裕は無かったものの、考察を終えることができたことは、今後の進展を考える上で、好結果であったと考えられる。 発表標題:能勢栄(福島県師範学校長)の『通信教授 教育学』(明治19年刊)における身体教育の位置づけ:二つの「身体」(生体・媒体)に基づく検討
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、まず、前年度に考察できなかったヘルバルトにおける身体教育の位置づけを検討し、なぜヘルバルト教育学において身体教育を否定して教育が可能だったのか、について明らかにする計画である。 そして、従来の計画通り、ペスタロッチとヘルバルトにおける二つの「身体」について、日本へ伝わる以前と以後とを比較する。 ペスタロッチ主義の場合、アメリカを経て日本へ伝わるが、幸い、日本大学には、アメリカ教育史専門の小野次男(故人)が用いた古い教育雑誌が残っている。この雑誌を活用し、日本に紹介される以前のアメリカにおけるペスタロッチ主義を検討する。 ドイツにおけるヘルバルト主義については、ヘルバルト派のケルン(Kern,H.)、リントナー(Lindner,G.A.)、ライン(Rein,W.)などの原著を用い、二つの「身体」について検討する。また、ヘルバルト主義を日本に紹介したのは、ドイツ人、ハウスクネヒト(E.Hausknecht)であるが、彼が「体育」に言及する資料を見つけたので、それらを活用し、二つの「身体」について検討する。また、ヘルバルト主義に関しては、その導入にあたり、ペスタロッチ主義者から身体教育を否定する点が批判されていた。この批判に対し、ヘルバルト主義者も体操による精神教育を「体育」と称し、反論する。この論争を通し、ペスタロッチ主義とヘルバルト主義における相違を二つの「身体」を通して検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ペスタロッチやヘルバルトの文献はほぼそろったので、平成25年度は、身体論に関する文献の収集に力を入れたい。工学系の大学に勤めているため、図書館には哲学・社会学などの基本図書を欠く場合が認められるためである。 また、福島県郡山市に在住しているため、古い原書や貴重書や新聞資料などを調べるには、国会図書館のある東京と福島を何度も往復する旅費・宿泊費が必要となる。この点は、積極的にセミナーで意見交換をしたり、学会発表を行う上でも必要不可欠である。 さらに、出張先や自宅など、大学外で仕事をこなせる環境を整えるため、ネットワークハードディスクの設置やタブレットPCの購入を検討中である。
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