2013 Fiscal Year Research-status Report
教育学における身体教育の位置づけ:二つの「身体」(生体・媒体)に基づく歴史的検討
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24650375
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中野 浩一 日本大学, 工学部, 准教授 (40579728)
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Keywords | 身体教育 / ペスタロッチ / ヘルバルト / 森有礼 / 兵式体操 / 身体の規律化 |
Research Abstract |
ヘルバルト(Herbart,J.F.)を検討した結果、以下の知見が得られた。 ①ヘルバルトの場合、身体(生体)に関しては自然に成長するものとして、陶冶(教育)の対象外と考えている。このため、ペスタロッチで認められた身体(生体)教育という概念は否定されている。そして、身体的諸力の育成や健康の保持・増進などは、教育を行う以前の準備段階に位置づけられ、それに身体養護という概念があてはめられ、教育とは区別されている。一方、ペスタロッチにおける身体(媒体)教育は、教育目的を達成する手段として、ヘルバルト教育学の「教授」と「訓練」に位置づけられている。この点は、今日の「体育」、すなわち運動(特にスポーツ)を手段とした教育という概念に基づき、ヘルバルト教育学を検討すると、見過ごされてしまう。 ②ヘルバルトは、身体(生体)が精神に影響を与えることを理解していた。このため、生理学に基づいた「気質」の類型化が試みられている。しかし、疲労など、常に変化する生理的側面を固定的な気質に類型化しても、必ずしもあてはまるとは限らない。このような身体(生体)の合理化により、子どもへの理解は、ペスタロッチ教育学に比べると減少しているといえる。また、教育の全てを精神的側面から検討する場合、理解しきれない部分を残すことになる。 ③しかし、衣食住など、身体(生体)の育成を担うペスタロッチ教育学に比べると、ヘルバルト教育学による身体(生体)教育の除外は、教育者の役割を軽減し、合理的である。この点は、学校衛生制度の導入を促進し、今日の学校教育において、保健室や給食室や親に役割が分担されるなど、役立っている。また、四段教授法の「方法」や「訓練」に身体(媒体)教育を位置づけ、教育の完成を企図している点は、ヘルバルト教育学の継承者を経て、日本を含む各国に紹介され、影響を与えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度は、科研費を活用し、複数の種類があるヘルバルト全集を入手することが出来た。この結果、各種の原書を比較・検討することが出来た。そして、ヘルバルトの身体教育の位置づけに関し、日本教育学会で下記の標題で発表を行い、論文を作成した。 発表標題:ヘルバルト教育学における身体教育の位置づけ:二つの『身体』(生体・媒体)に基づく検討 しかし、平成25年度に予定していたヘルバルト教育学の継承者に関しては、考察を行うことができなかった。難解と言われるヘルバルトの資料分析に時間がかかったためである。 この遅れの代わりに、平成25年度に予定していたその他の部分、すなわち、ヘルバルトの日本への影響に関する部分を、勤務校の学術研究報告会において、下記の表題で発表した。 発表標題:能勢栄(福島県師範学校長)のヘルバルト主義教育学における身体教育の位置づけ:二つの「身体」(生体・媒体)に基づく検討
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、明治初期、翻訳を通して日本に紹介されたペスタロッチやヘルバルトの教育学説を検討したい。このため、翻訳された原本を日本の国会図書館など、日本国内の資料館で調査する予定である。しかし、日本国内では原本が見付からない場合、海外の資料館を利用して探し出す計画である。 また、これまで検討してきたペスタロッチとヘルバルト、また、彼らの日本の教育学への影響をまとめ、研究書として出版する予定である。 ペスタロッチやヘルバルトの文献はほぼそろったので、平成26年度は、身体論に関する文献の収集に力を入れたい。工学系の大学に勤めているため、図書館には哲学・社会学などの基本図書を欠く場合が認められるためである。 また、福島県郡山市に在住しているため、古い原書や貴重書や新聞資料などを調べるには、国会図書館など、遠方にある資料館を何度も往復する旅費・宿泊費が必要となる。また、積極的にセミナーで意見交換をしたり、学会発表を行う上でも必要不可欠である。さらに、国内のみならず、欧米の資料館を活用し、資料収集に努めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越金額が4万円弱であるが、購入希望であった図書が欠品のため、購入することができなかった。現在、古本で購入できるか調査中である。以上のように、研究費の執行については、前述の内容を除けば、ほぼ順調に進んでいると考えている。 平成26年度については、未購入の図書の購入及びやや進行が遅れているヘルバルト教育学の継承者の考察に必要となる資料代、また、資料館へ出張するための宿泊・交通費、及び資料分析用のパソコンソフトや機器の費用に充当する予定である。
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