2012 Fiscal Year Research-status Report
筋のボリューム及びその変形を考慮した次世代筋骨格モデルの開発
Project/Area Number |
24650383
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平島 雅也 東京大学, 教育学研究科(研究院), 助教 (20541949)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 筋骨格モデル / 筋ボリューム / 干渉計算 / シミュレーション / バイオメカニクス |
Research Abstract |
筋骨格モデルは、現在、バイオメカニクス関連分野において幅広く用いられるようになってきており、ヒト多リンク系の運動解析には欠かせないものとなってきている。しかし、筋を直線で近似するという20年来の手法を採用したモデルでは、肩関節まわりなどの複雑な筋走行を再現することは困難であり、バイオメカニクス研究の大きな壁となっている。この問題を根本的に解決するために、本研究では、筋のボリューム及び筋同士の接触による変形を考慮した次世代筋骨格モデルを開発することを目的とした。 ボリュームをモデル化する際の最大の課題は「計算負荷の増大をいかに抑えるか」である。単一筋の形状を精度良くモデル化するためであれば、多少計算時間がかかったとしても有限要素法を用いるべきである。しかし、ヒトの個体レベルでの運動解析を行うには、多数の筋の形状を同時に計算する必要があるため、計算負荷の高い有限要素法を用いていては実用に耐えられないと考えられる。そこで、本研究では、筋の表面に質点を配置し、それら質点の動きをバネマスダンパ系でモデル化しただけの簡易的なボリュームモデルを作成することにした。また、多質点のバネマスダンパ系は、並列計算処理に向いているため、近年その高速性能で急激に注目を集めるようになってきたGPU並列計算プログラミング手法を適用できるというメリットもある。 初年度の平成24年度では、紡錘状筋の形状をシミュレートできる単一筋のプロトタイプモデルを作成し、三角筋中部線維、烏口腕筋の収縮シミュレーションを行った。その結果、解剖学的に妥当な関節運動が得られることを確認した。また、質点数の増加に伴う計算時間の増加は非常に緩やかであることも確認した。この結果は、並列計算処理の効果が現われていることを示しており、本モデルを発展させることで、今後、多数筋を同時にシミュレートする際に有効に機能することが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目的は、紡錘状筋の形状をシミュレートできる単一筋のプロトタイプを、並列計算処理プログラム手法で作成することが目的であった。そのためには、①GPU並列計算処理プログラム手法(CUDA)への習熟と、②その並列計算手法を最大限に活かすための筋形状のモデル化を行う必要があった。 ①GPU並列計算処理プログラム言語として、その汎用性とパフォーマンスの高さからCUDAが注目を集めている。近年多数出版されているCUDA関連書籍やセミナーを有効に用い、4月~8月にかけて集中的にトレーニングを行った。また、シミュレーション結果を視覚的に提示するために、java3Dを用いたアニメーションも開発した。 ②GPUには小さな計算ユニットが多数用意されており、CUDAプログラム内では3次元的に配置されている。そこで、筋形状のモデル化の際にも、質点を3次元的に配置することで、計算効率よく且つプログラマーへの視認性もよいモデルを構築した。また、筋形状の元になるヒト解剖学データについては、本研究の用途に合致するような市販の筋形状モデル(Zygoteモデル)を採用することにした。 このようにして組み上げたプロトタイプモデルを三角筋、烏口腕筋へ適用し、解剖学的に妥当な関節運動を得ることができたことから、24年度の研究はおおむね順調に進展したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、多数筋の同時シミュレーションを実現することを目的とする。そのためには、①今回開発したプロトタイプを様々な筋形状へ適用する作業、②筋同士の干渉を計算するプログラムの開発、③計算速度向上のためのプログラム最適化、④実用性のチェックなどが必要である。 ①筋は紡錘状筋だけではなく、大胸筋や菱形筋などシート状のものや、上腕二頭筋・三頭筋など複数に分岐する筋など様々な形がある。そのため、紡錘状筋としてモデル化したものがすべての筋に適用可能であるとは限らない。そこで、筋形状をいくつかのタイプに分け、それぞれに最適化したモデル化(質点の配置)をする予定である。 ②筋の走行を正確に再現するには、筋にボリュームを持たせるだけではなく、そのボリュームを持った筋同士が重なり合った状況を再現する必要がある。一般的に、干渉計算プログラムは負荷の高い計算であるため、できるだけ並列化を行い、GPUのメリットを最大限に活かすよう工夫を行う。 ③GPUプログラムのパフォーマンスを究極的に高めるためには、対象となるシミュレーション毎にプログラムの最適化を行うべきである。GPUのメモリ構造を理解し、本モデルにおけるメモリ間のデータ転送量を抑える工夫をする。 ④以上3点を行った後、体幹及び上肢の主要な筋(およそ40筋ほど)の形状を、干渉計算込みで同時に計算できるプログラムを実際に走らせ、本モデルの実用性能をチェックする。必要に応じて①、②、③を繰り返し、性能アップをはかる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の推進方策にあげた①~④に基づいて研究費の使用計画を記入する。 ①筋の解剖学に詳しい専門家に協力して頂きながら、筋形状を正確に表現するために最低限必要な質点の選択を行う。この際、専門家へ謝金を支払うことを予定している。 ②干渉検出アルゴリズムは、それ自体がコンピュータアニメーションの一大研究分野を構成するほどの大きな問題であるため、本研究だけで扱いきれる問題ではない。ここではアニメーションプログラマーに作成を依頼するか、または、商用の干渉計算ライブラリを購入することで対処する予定である。 ③メモリ転送についても、必要に応じて、並列計算プログラムの専門家に協力を依頼する。その場合、謝金を支払う予定である。 ④個体レベルのシミュレーションに耐えられるかどうかを確認するために、標準的なワークステーションを用いて検証を行う。GPUは発展めざましいため、検証可能となった時点で最新のGPUを搭載したワークステーションを購入する予定である。
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