2012 Fiscal Year Research-status Report
嚥下困難者に対応した固体膨化食品の創製に向けての食塊の力学・界面物性の制御
Project/Area Number |
24650477
|
Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
三浦 靖 岩手大学, 農学部, 教授 (50261459)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 食生活学 / 食品 / 咀嚼性 / 嚥下性 / 食品物理学 / レオロジー / 界面化学 / トライボロジー |
Research Abstract |
ケーキ・マフィン様膨化モデル食品を調製し,ショ糖ステアリン酸エステル(SES)がモデル食品の理化学的特性に及ぼす影響を検討した。SES配合により,気孔数の増加,見掛け密度の減少,硬化抑制,唾液吸収量が高まることが期待された。嚥下困難者対応の固体膨化食品としては,気泡壁の力学的強度を低下させることが望ましいが,空隙の体積分率が大きくなると,口中に入れた際の食品の唾液吸収量が多くなると考えられる。固体膨化食品の膨化に伴う気泡壁の薄膜化による気泡壁の力学的強度の低下を目指すのではなく,気泡壁の軟化により力学的強度の低下させることが望ましいと考えられた。 モデル食品から人工食塊を調製し,そのレオロジー的,界面科学的およびトライボロジー的特性に及ぼす乳化剤の影響を検討した。人工食塊の硬さは,SESの配合により減少する傾向があった。0.25%(w/w)親水性SES配合試料から調製した人工食塊の付着力と圧縮エネルギーが対照試料の場合に比べて小さかった。0.25%(w/w)親油性SES配合試料の人工食塊が対照試料よりもやや粘性的になった。SES配合量の増加により試料は一般的に粘性的になった。人工食塊の摩擦力は,SES配合試料と対照試料とで有意差がほとんど見られなかった。 モデル食品を咀嚼・嚥下した際の咽頭部での食塊の流速を測定した。乳化剤の配合が嚥下容易性に及ぼす影響を3点比較法および順位法で官能評価した。モデル食品の咽頭部での最大流速は,水やヨーグルトよりも遅かったため,唾液を十分に吸収したモデル食品の食塊は誤嚥性が低いと考えられた。口中での崩壊容易性と唾液吸収性については,いずれの試料においても有意差が見られなかったが,対照試料が有意に硬く,1% (w/w)親油性SES配合試料が有意に軟らかいと評価された。嚥下時の抵抗は1%(w/w) 親油性SES配合試料が有意に低いと評価された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度には,固体膨化食品のレオロジー特性と界面化学特性,食塊のレオロジー特性,トライボロジー特性および界面化学特性を数値化するための評価系をほぼ確立した。 1.固体膨化モデル食品の理化学特性の評価:試料にする固体膨化モデル食品を特徴付けるために,固体膨化モデル食品の比容積,表面積,水分活性,圧縮特性(硬さ),気孔構造(気孔面積率,X-/Y-フェレ径,楕円率,ラフネス)を測定し,微細構造を観察した。 2.固体膨化モデル食品の人工唾液に対する濡れ性の評価:モデル食品生地を圧延して調製した試料に対する人工唾液の接触角を測定した。 3.固体膨化モデル食品の人工唾液吸収挙動と崩壊性の評価:立方体状のモデル食品を所定温度の人工唾液に浸漬して人工唾液吸収量を測定した。人工唾液吸収過程でのモデル食品の形状変化をデジタル高速度カメラにより計測した。 4.口腔・食道粘膜上での食塊の界面挙動の評価:所定温度の人工唾液に浸漬して平衡吸収量に達した立方体状のモデル食品を試料にして,単軸圧縮・引張型レオメータを使用して等速圧縮変形を所定回数繰り替えした際に,試料から圧縮プランジャーが引き離される際に発生する付着力を測定した。 5.口腔・食道粘膜上での食塊のレオロジー的挙動の評価:所定温度の人工唾液に浸漬して平衡吸収量に達した立方体状のモデル食品を試料にして,単軸圧縮・引張型レオメータを使用して等速圧縮変形を所定回数繰り替えして食塊を調製した。これを試料にしてひずみ制御型動的粘弾性測定装置を使用して動的粘弾性(貯蔵弾性率,損失弾性率,力学的損失正接)を測定した。 6.口腔・食道粘膜上での食塊のトライボロジー挙動の評価:所定温度の人工唾液に浸漬して平衡吸収量に達した立方体状のモデル食品を試料にして,2分力ロードセル・X軸直動部を装着した単軸圧縮・引張型レオメータを使用して摩擦係数を測定した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は,固体膨化モデル食品を嚥下困難者対応にするために,モデル食品およびその食塊のレオロジー特性,界面化学特性およびトライボロジー特性の目標値を明らかにする。 1.固体膨化モデル食品の人工唾液に対する濡れ性の目標値の明確化:モデル食品生地を圧延して調製した試料に対する人工唾液の動的接触角と健常人が評価した嚥下しやすさとの相関を検討し,目標値を明確にする。 2.固体膨化モデル食品の人工唾液吸収挙動と崩壊性の目標値の明確化:モデル食品の人工唾液吸収量および吸収速度,崩壊開始時間と健常人が評価した嚥下しやすさとの相関を検討し,目標値を明確にする。 3.口腔・食道粘膜上での食塊の界面挙動の目標値の明確化:モデル食品から調製した食塊の付着力と健常人が評価した嚥下しやすさとの相関を検討し,目標値を明確にする。 4.口腔・食道粘膜上での食塊のレオロジー的挙動の目標値の明確化:モデル食品から調製した食塊の動的粘弾性および大変形の応力成長と健常人が評価した嚥下しやすさとの相関を検討し,目標値を明確にする。 5.口腔・食道粘膜上での食塊のトライボロジー挙動の目標値の明確化:モデル食品から調製した食塊の摩擦係数と健常人が評価した嚥下しやすさとの相関を検討し,目標値を明確にする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は,平成24年度に確立した固体膨化食品のレオロジー特性と界面化学特性,食塊のレオロジー特性,トライボロジー特性および界面化学特性を数値化するための評価系を用いて,固体膨化モデル食品を嚥下困難者対応にするために,モデル食品およびその食塊のレオロジー特性,界面化学特性およびトライボロジー特性の目標値を明らかにする。この検討のために,食品原材料,試薬,ガラス・樹脂器具などの購入に研究費を使用する。
|