2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24650480
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
小西 洋太郎 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 教授 (70116812)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 1,5-アンヒドログルシトール / 甘味料 / 機能性糖 |
Research Abstract |
1,5-アンヒドログルシトール(以下AG)は自然界に広く分布する糖である。特に生薬オンジ(イトヒメハギ科植物の根)に多く含まれることから、このAGを比較的大量に精製することによって、これまで研究例のない食品化学的研究に着手した。今年度の研究成果は以下の3つである。 (1)簡便で、高収率・高純度のAG精製法を確立した。すなわち、オンジ脱脂粉末試料から4%トリクロロ酢酸でAG を抽出し、活性炭処理で脱色後、加熱濃縮した。これらの処理によって、トリクロロ酢酸の部分的な分解によりpHが上昇し、次のステップであるイオン交換クロマトグラフィーへの負荷量や樹脂への負担が軽減された。最終的にはAGの結晶化にも成功し、収率3.5~5.5%、純度95.4%(市販品は96%)の標品を得た。 (2)官能試験および味覚センサーでAGの甘味度(スクロースを100とする)および甘味特性を測定した。閾値から算出する官能検査法では47であった。AG溶液と同等の甘さを有するスクロース溶液濃度を比較する方法では、甘味度は53~58であった。味覚センサーによる甘味度は75であった。次に官能試験による甘味質に関して調べた。数量化はしていないが、スクロースに比べ、甘味の引きが速く、後味として苦味が残ることが明らかになった。また、味覚センサーを用いた分析で、AGは紅茶の苦味を抑制した。 (3)AGは代謝ないか、または代謝されにくい糖であることが分った。すなわち、絶食ラットにAGを単独経口投与した結果、投与量(375, 750, 1500 mg/kg 体重)に比例して血中AG濃度は上昇し、いずれも30分で最大となり、その後低下した。血糖値には全く影響を及ぼさなかった。投与したAGの約55%は投与9時間以内に尿中に排泄された。 以上、3つの成果は、新しい機能性糖の開発に向けての出発点となったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の計画は(1)AGの最適な抽出および高純度・高収率の精製法の確立、(2)AGの甘味度および甘味特性の評価、(3)AGのラットにおける体内動態であった。 (1)については、脱色方法として活性炭、ポリクラール、およびその併用について検討した結果、活性炭4%添加は脱色効果がよく、収率は未処理と比べ、約20%減にとどめることができた。またトリクロロ酢酸による抽出液を加熱濃縮することにより、トリクロロ酢酸が部分的に分解され、pHが上昇し、次のステップである陰イオン・陽イオン樹脂への負担が軽減された。精製したAGの純度は、Na型配位子交換カラムMCl GEL CK08S(8×500 mm)を用いたHPLC法(検出は示差屈折計)で95.4%であり、市販品(純度96%)に匹敵した。また、AGをエタノール下で結晶化を行い、無色の平たいプリズム状結晶の集合体を得た。このようにAGの精製方法についてはほぼ確立し、その結果を特許出願した(別記参照)。 (2)については、官能試験ではできるだけ個人差によるデータのばらつきを排除するため、被験者に五味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)の識別テストを行い、その結果12人のパネルを選抜した。閾値から求めた甘味度は47、AG溶液と同等の甘さを有するスクロース溶液濃度と比較する方法では、甘味度53~58であった。味覚センサーによる甘味度は75であった。また、味覚センサーを用いた分析で、AGは紅茶の苦味を抑制する効果があるという新しい知見が得られた。 (3)については、経口投与されたAGは、吸収された後、約55%は9時間以内に尿中に排泄されることから、代謝されにくい糖であることが示唆された。体内にとどまったAGは各組織(肝臓、腎臓、骨格筋、大脳など)に取り込まれるが、経時的に濃度が低くなっていくことが分った。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、第一に、AGの甘味特性についての実験を行なう。具体的には、AGを紅茶やコーヒーに入れたときの甘味と苦味や渋味との相互作用を味覚センサーおよび官能試験で評価する。 第二にAGの機能性について動物試験を引き続き行う。AGはグルコースと化学構造が類似しているため消化管における吸収の場で、また、組織での取り込みの段階で拮抗することが予想される。そこで、AGと他の糖質(グルコース、スクロース、フルクトースなど)との併用投与による血糖値、血中AGおよび組織AGレベルへの影響を調べる。 第三の計画として、AGの利用拡大策として、ピラノースオキシダーゼによるAGから1,5-アンヒドロフルクトース(AF)へ酵素的転換を行なう。AFは抗褐変活性,抗酸化活性,抗菌活性,抗肥満活性,抗腫瘍活性など様々な機能性を有することが知られている糖である。基質AG濃度(mM)と酵素(U/ml)との比を5:1~200:1に設定し,pH 3~7, 37℃、反応時間10分~24時間の条件で,AFの還元力(ビシンコニン酸法による)を測定し,AF転換率を算出する。さらに、AFの抗褐変活性について検討する。すなわち、ジャガイモ抽出液を非加熱または加熱処理を行ない、それぞれ酵素的褐変、非酵素的褐変に及ぼすAFの影響を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
AGの体内動態を調べるため動物試験を引き続き行なうので、ラット、AG測定用試薬等が必要である。また、オンジからのAGの抽出・精製、AGからAFの酵素的転換の実験、さらに抗褐変活性測定に必要な試薬類、クロマトグラフィー用の樹脂、器具類などが次年度研究を遂行する上で必要な経費である。
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