2012 Fiscal Year Research-status Report
鯉類の消費拡大と食文化イノベーションがもたらす環境負荷低減効果
Project/Area Number |
24650486
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大柿 久美子 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 教務職員 (00169898)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | LCA / 食と環境 / 食習慣 / 食文化イノベーション |
Research Abstract |
鯉に関しては、全国的な鯉ヘルペスの影響と、主要な生産地福島の原発事故の風評の影響を受け、通常の養殖に関するLCAのためのデータ入手が困難な状況であることが明らかとなった。 そこで、鯉科の小型魚ホンモロコが休耕田を利用した養殖によって生産量が伸びつつある事を知り、耕作放棄地増加を抑止する効果も期待してホンモロコの養殖生産の二酸化炭素排出係数を求める事とした。埼玉県農林総合研究センター水産研究所を訪問し聞き取り調査を行なった。埼玉県の水産研究所がまとめた収支報告を基に、積み上げ法で二酸化炭素排出係数を算出し、3.62(t-CO2/t)という値を得た。一般的に魚は廃棄率が大きい事から、可食部当たりの二酸化炭素排出係数を他の魚と比較して廃棄率0%のホンモロコの二酸化炭素排出係数は大きな値ではない事が明らかとなった。 しかし、養殖池から直接大気放出される温室効果ガスを考慮していないことは限定的な二酸化炭素排出係数であると考え、野菜、畜産品等他の二酸化炭素排出係数においても農地から直接大気放出される温室効果ガス排出量は考慮されていない事から、他に先駆けて養殖池の温室効果ガスに言及した。 しかし理論計算は正確には出来ない事が明らかとなり、養殖池から大気放出される温室効果ガスをほぼ吸収するための植物の利用について考察したが、最終的な植物の処理方法が確立されていないため、提案にとどまった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
鯉に関しては鯉ヘルペスの影響で生きたままの鯉の移動が禁止されている状況が未だ続いており、さらに主要産地の福島では原発事故の風評の影響で通常とは異なる収支状況である事が明らかとなった。そのため通常の鯉の養殖のLCA用データを入手することは困難であることが明らかとなり、計画を修正してまず、鯉以外の淡水魚で養殖のための設備等へのエネルギー投入が小さな魚を対象とするLCAから始めることとした。 また国際的には水産養殖は最も成長の早い動物性食品の生産部門として、人口増を上回る伸びが続いているにも関わらず、我が国では特に内水面養殖は最も生産量が多かった昭和55年の612万トンに対し、現在は87万トン(平成23年)まで減少している。その原因について生産現場で直接情報収集したところ、原因はいくつかあげられるが、飼料の供給から魚の販売までを網羅する大規模流通システムが構築されつつあり、淡水魚の多くは小規模養殖業であるため近年販路が縮小される傾向であるという事が明らかとなり、鯉類その他淡水魚の消費拡大のシナリオを再検討する必要に迫られた。 新たなシナリオとして、広域での流通ではなく、鯉類および様々な淡水魚についてまず地産地消の食文化イノベーションを提案することとした。LCAによって養殖の環境負荷を評価する際、土地利用という観点から農業との比較や共存も検討た上で環境負荷低減効果を評価する必要性が明らかとなり、新たな調査が必要となった。 そこで鯉科の小型魚ホンモロコの養殖について、これ等の研究を進めているが、計画の修正と新たな調査内容が付加されたことから、達成度がやや遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
中国陝西省西安市郊外の鯉の養殖池、市場等を調査したところ、簡単な水槽で調理直前まで活魚で多くの淡水魚が販売・保存されており、国内のホンモロコに関しても、産地近郊で簡単な水槽や袋などで活魚として販売されている事がわかった。このように鯉類の淡水魚は活魚での販売・保存が容易であるが、活魚での販売・保存による二酸化炭素排係数を、冷凍による場合と比較し評価する。 また、休耕田を利用した養殖池から直接大気放出される温室効果ガスを考慮した二酸化炭素排出係数が求められるべきであると考え、この考えに沿って二酸化炭素排出係数を求めることができた場合、他の農産物や畜産物等の食品に関しても農場から大気放出される温室効果ガスを考慮して二酸化炭素排出係数を求めるべきであると提案したい。 休耕田を利用した養殖池から直接大気放出される温室効果ガスを削減するための方法として、筏を用いた植物の水耕栽培で水中の窒素成分を吸収することがどの程度可能か、調査あるいは実験を行なって評価し、最終的な植物の利用方法、処理方法を提案する。 鯉類その他内陸地域での地産池消に適した環境負荷の小さな淡水魚があると考えられるが、国内では、近年淡水魚を食べる食習慣が内陸地域でも衰退し、消費拡大は若年層には特に望めない。そこで様々な地域の食文化を調査して、馴染み易い調理方法を提案し、モニターに実際に食べてもらい、その反応が良いものがあった場合、調理方法や食べた感想をホームページを通して社会に発信する。それを発端として、人口増加と地球環境の破壊に伴って予想される今後の食料事情と、農産物・水産物の生産現場を紹介し、食と環境の今後の在り方を社会に問いかけ広く問題の共有を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
鯉は養殖環境の制約が少なく短期間に重量が増加する魚で、動物性の食料として今後消費拡大が望まれる。そのための鯉の養殖のCLAを求めたいと考えていたが、調査の結果現在、鯉ヘルペスと原発事故の影響で通常の養殖が行われているとは言えず、LCAのデータ入手が困難であることが明らかとなった。また、鯉ヘルペスの影響で生きたままの鯉の移動が禁止されており、比較的簡単な設備で活魚として輸送・販売できる特徴を生かせない現状である。そのため、研究対象を鯉類および淡水魚一般に広げ、地産地消の新たな食文化を提案してLCAによって養殖の環境負荷を評価し、土地利用という観点から農業との比較や共存も検討した上で環境負荷低減効果を考察することとした。 そのために諸外国の鯉および鯉類の食文化の調査を行う予定であったが、食文化の調査内容を熟考すべきであると考えて次年度にまわしたため、未使用額をこれに充てる予定である。 したがって次年度は、養殖池から大気放出される温室効果ガス抑制のための新たな調査も含めて、以下ような研究費の使用を計画している。 (1)魚の養殖と水耕栽培を組み合わせたアクアポニックス施設等を見学し、養殖池での水耕栽培の効果について情報収集するための旅費、(2)様々な地域の食習慣と淡水魚の食文化調査旅費、(3)必要に応じて水質検査の外注、(4)国内学会および国際会議で発表するための経費、(5)その他
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