2013 Fiscal Year Research-status Report
加齢および炎症性腸疾患におけるアミノ酸トランスポーターとプロスタグランジンの役割
Project/Area Number |
24650501
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
伴塲 裕巳 埼玉医科大学, 保健医療学部, 講師 (80453447)
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Keywords | アミノ酸トランスポーター / LAT1 / プロスタグランジン / 腸上皮細胞 |
Research Abstract |
H25年度は、昨年度の結果から腸上皮細胞株のモデルについて再検討を行なったため、大きな成果を得ることはできなかった。 昨年度は各種プロスタグランジン(PG)の刺激に対して腸上皮細胞モデルであるHT-29細胞株ではアミノ酸トランスポーター(LAT1)の発現反応は鈍く、大きな変動を得ることができなかった。この背景として二点の問題点を考えた。一つは腸上皮細胞としてヒト大腸癌細胞株を用いていることが原因として挙げられる。ヒト大腸癌細胞を使用しているため、既に過剰発現している細胞にPGを刺激しても大きな変動を得ることはできない可能性が考えられた。二点目は過去に得られている自身の研究成果から1%牛胎児血清(FBS)条件下でPGの刺激を行なっていることが影響していると考えた。1%FBS条件の設定はU937-DE4 細胞をマクロファージ様に分化誘導させた炎症細胞モデルに合わせている。この炎症細胞モデルにおいては0.1%牛血清アルブミン (BSA) 存在下ではマクロファージに分化した細胞が生存に耐えられない。また、1%FBS存在下においても長く培養していると細胞の状態が徐々に落ち始めるため、刺激後12時間の値を刺激に対する応答として判断していた。これまで研究においては12時間という短時間でも腸上皮細胞のサイトカインの産生レベルでは反応を得られていたが、アミノ酸トランスポーターの発現では影響を認められないと考えられる。そのため炎症細胞モデルの条件下での検討を取り敢えず中止し、正常ヒト小腸上皮細胞での検討と0.1%BSAレベルでの条件下に変更して検討する方針に切り替えた。 正常ヒト小腸上皮細胞はDSファーマバイオメディカルより購入したものを用いた。しかしながら、正常ヒト小腸細胞の培養に手間取り、PGで刺激実験を行なうまでの細胞数を必要量まで増やすことができず解析出来なかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成25年度は昨年度の結果を踏まえて、プロスタグランジンのアミノ酸トランスポーター(LAT1)の発現に与える影響を明確に調べるために腸上皮細胞のモデルを再検討をするだけに終始してしまった。アミノ酸トランスポーター(LAT1)の発現が既に過剰している可能性がある大腸癌細胞株を腸上皮細胞のモデルとして用いるよりは、正常ヒト小腸上皮細胞を用いれば、プロスタグランジン刺激によるアミノ酸トランスポーターの発現がより明確に現れるのではないかと考え、当該年度の初頭に計画していた実験方針を替えて正常ヒト小腸上皮細胞を導入した。しかしながら、正常ヒト小腸上皮細胞購入後のストック細胞から刺激実験に供せるだけの細胞数を確保できるよう試みたものの、これまでに取得している初代培養技術を活かせず、実験に供することが出来なかった。 また、当該年度の途中で、条件設定の検討に進めるべく、他の大腸癌細胞株を培養していたが、使用しているCO2-インキュベーターの不調が断続的に起こり、何度も培養中断に追い込まれている状況であった。この不調が十分な実験時間を確保できる期間と重なってしまったために条件検討や必要なサンプルを十分量採取することが出来ず、実験の遂行が更に遅れる原因となってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
正常ヒト小腸上皮細胞導入の失敗から、H25年度の初頭に計画していた研究を改めて遂行する。現在までに得られている情報はヒト大腸癌細胞株のHT-29 細胞の結果であるため、今後は、H24年度に収集したヒト大腸癌細胞株のCaco-2細胞のサンプルの解析を進めてHT-29 細胞と同じ傾向を認めるか否かを検討する。また、刺激条件の変更を行ない、再度プロスタグランジンのアミノ酸トランスポーターへの発現も検討する。条件設定を検討する細胞株は、Caco-2細胞の結果を踏まえて検討する。できるだけ小腸上皮細胞のモデルに利用されている頻度が高いCaco-2で行なう予定である。一方、炎症細胞におけるプロスタグランジンのアミノ酸トランスポーター発現の検討はCaco-2細胞の結果により、FBSの濃度や刺激時間の条件が腸上皮細胞モデルの条件と揃えることが出来れば検討する。 時間的に動物実験が不可能になった場合は、当初より計画に考えていた炎症性腸疾患モデルを検討する。48時間培養したCaco-2細胞の培地に5%のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を添加し、更に24時間培養後、総RNAを抽出し、LAT1, LAT2, 4F2hc, およびASCT2のmRNA発現を Real-time RT-PCR法にて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験当初の予想と異なり、プロスタグランジンとアミノ酸トランスポーター(LAT1)発現との間に大きな因果関係が認められない。早期にこの点を明らかにして研究方向の転換を図ろうとして既に入手していた正常ヒト小腸上皮細胞を導入したため、大幅な実験変更を余儀なくされた。正常ヒト小腸上皮細胞を十分量増やせず、次のステップであるサイトカイン(増殖因子を含む)のLAT1に与える影響の解析に進むことが出来なかった。 また、初年度にBIO-RAD社のBio-Plexサスペンションアレイシステムを導入し、タンパク分析を計画していたが、機器の故障やWestern blottingによるタンパク発現の結果を考慮して高額なkitの購入を控えていた。更に、動物実験を導入するだけの根拠となるdataが不足していたため、動物実験の遂行が出来なかった分、実験動物やその組織に適した抗体を購入しなかったことにより、費用の使用が限られてしまった。 当初の実験条件を変更し、従前から採用していた炎症細胞の刺激実験の条件を用いず、FBSの影響をなくしたBSA条件下での検討を早急に進める。また、大腸癌細胞株をより腸上皮細胞に近づけるため、Corning (旧Falcon)社の腸上皮細胞分化エンバイロメントを利用する予定である。このシステムは通常の培養状態に比較して栄養成分の輸送研究に適しているという報告があるため用いる。プロスタグランジンとLAT1発現の因果関係を明確にするため、タンパク質レベルの発現は抗体の検討をした上で、再度挑戦する。また、タンパクレベルの発現の変動に拘らず、刺激実験の評価を検討予定に入れている各トランスポーターmRNA発現レベル(Real-time RT-PCR法)にて検討する。 尚、正常ヒト小腸上皮細胞の細胞が増殖できなかった背景にはCO2-インキュベーターの不調が関係している可能性もあり、CO2-インキュベーターの購入も使用計画の中に入れて考えている。
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