2012 Fiscal Year Research-status Report
食品の香りが脳のストレス応答に及ぼす影響の客観的評価
Project/Area Number |
24650506
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
増尾 好則 東邦大学, 理学部, 教授 (60301553)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ストレス / 脳 / MAPK / BDNF / TrkB |
Research Abstract |
本研究は、コーヒー豆の香りが脳のストレス応答に及ぼす効果を解析してストレス抑制メカニズムを明らかにすると共に、ヒト血中ストレスマーカー候補群の変化に対する香りの効果を明らかにすることを目的とする。平成24年度は、海馬におけるMitogen-activated protein kinase(MAPK)経路の解析を行った。ラットを無作為に4群:対照群(通常環境)、ストレス群(水浸ストレス)、コーヒー群、ストレス+コーヒー群に分けた。各環境下で24時間飼育した後に海馬を摘出し、ウェスタンブロット法により各種蛋白質の発現量を測定した。脳由来神経栄養因子(BDNF)は各群間で有意な差を示さなかったが、ストレス群のBDNF発現量は対照群より低下傾向を示した。BDNFの高親和性受容体であるtropomyosin-related kinase b(TrkB)のアイソフォームgp145とgp95を測定した結果、ストレス+コーヒー群のgp95は対照群およびストレス群より有意に低下したが、gp145は変化を示さなかった。ストレス+コーヒー群のTrkBにおいては、MAPK経路を活性化するキナーゼを有するgp145の割合が高かった。コーヒー豆の香りは、相対的なgp145の増加を引き起こすことでMAPK経路のシグナルを亢進させ、ストレス抵抗性を付加するものと考えられる。免疫組織化学染色を行った結果、前頭前野のBDNF陽性細胞数は対照群に比しストレス群で有意に減少、ストレス群に比しコーヒー群・ストレス+コーヒー群で有意に増加した。対照群とストレス+コーヒー群の間に有意差は認められなかった。前頭前野の機能障害は様々な精神疾患に関わっており、BDNFは神経細胞の成長や分化、生存維持に重要な役割を果たしていることから、本研究結果は、コーヒー豆の芳香がこれら疾患の予防に資する可能性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である「コーヒー豆の香りが脳のストレス応答に及ぼす効果を詳細に解析し、ストレス抑制メカニズムを明らかにすると共に、ヒト血中ストレスマーカー候補群の変化に対する香りの効果を明らかにすること」のうち、平成24年度の実施計画についてはほぼ達成したと考える。すなわち、ストレス負荷実験から行動科学的解析に至る動物実験および全脳摘出後に嗅球、大脳皮質、線条体、海馬、扁桃体、中脳等の諸核を採取し、生化学的・分子生物学的解析を実施した。ただし、最近の学術的背景に基づき、本年度は海馬と大脳皮質(前頭葉皮質)を中心に解析した。また、ストレスマーカー候補群としてperoxiredoxinおよび神経成長因子受容体(NGFR)の機能を解析する予定であったが、本年度はNGFRとその関連因子の解析に注力することとした。ストレスマーカー蛋白質の探索のためには、2次元電気泳動と質量分析を計画していたが、予算の都合により、ストレスマーカー候補蛋白質のウェスタンブロット解析を行った。解剖学的解析としては、免疫組織化学的解析を行った。新規ストレスマーカー候補蛋白質のうち抗体が存在しないものについて計画していたMALDI image 解析は、リール大学との共同研究を開始する段階に留まった。上述のごとく、当初の計画より若干解析するターゲットを絞ったことにより、新知見を得ることが出来た。成果の一部については、現在、投稿論文を作成中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には、コーヒー豆の香り曝露の影響について、糖質コルチコイド誘発受容体(GIR)、コレシストキニン(CCK)受容体、cytoskeletal-associated protein(Arc)を中心に機能解析を行う。また、コーヒー豆の香りがヒトのストレスレベルに及ぼす影響を調べる。1. 動物実験:24 年度と同様に行う。2. ストレスマーカー候補群の解析:24 年度と同様に行うと共に、ヒト末梢血におけるストレスマーカーの探索を行う。3. 臨床実験:ヒトの脳波を測定し、コーヒー豆の香り存在下でストレス曝露の影響を明らかにすると共に、採血する。4. 研究のとりまとめ:上記研究結果に基づき、コーヒーの香りがストレスに及ぼす効果を脳内分子レベルで明らかにし、国際誌、国内誌、学会等を通じて発表する。また、ストレスマーカー群をヒトの精神的健康に資するための研究へつなげる。 平成26年度には、コーヒー豆の香り曝露の影響について、25年度までに解析を終えた因子以外を中心に機能解析を行う。また、コーヒー豆の香りがヒトのストレスレベルに及ぼす影響を調べる。1. 動物実験:24 年度と同様に行う。2. ストレスマーカー候補群の解析:24 年度と同様に行うと共に、ヒト末梢血におけるストレスマーカーの探索を行う。3. 臨床実験:ヒトの脳波を測定し、コーヒー豆の香り存在下でストレス曝露の影響を明らかにすると共に、採血する。4. 研究のとりまとめ:上記研究結果に基づき、コーヒーの香りがストレスに及ぼす効果を脳内分子レベルで明らかにし、国際誌、国内誌、学会等を通じて発表する。また、ストレスマーカー群をヒトの精神的健康に資するための研究へつなげる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究費は、東邦大学で行う研究経費として使用する。 [消耗品費] 実験動物:実験に必要な成熟ラット購入費(130千円)/ 実験動物飼育費:上記ラットを一定期間飼育するための餌等・管理費(9千円)/ 分子生物学用試薬:RT-PCR等に必要となる試薬(471千円)/ プロテオミクス用試薬:ウェスタンブロット解析に必要となる試薬(200千円)/ その他試薬:上記試薬以外に必要となる試薬類(50千円) [旅費等] 国内旅費:本研究に関わる学会発表用旅費(100千円)/ 謝金等:英文校正 英語論文の校正を依頼する経費(200千円)
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