2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24650525
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
早川 健 山梨大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (40585387)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 数学的な思考力・表現力 |
Research Abstract |
本研究の目的は,数学的な思考力・表現力を質的,量的両面で評価する方法を提案することにある。質的方法は「(ア)授業中のノート記述と学習感想」によって,量的方法は「(イ)授業後の評価問題」によって評価する。本年度は,(イ)について評価問題を開発し,信頼性と妥当性を検証した。 まず,つまずき等に関する文献にあたり,思考力・表現力の指導の重点化と評価の視点の明確化を目指した。次に,小学校算数科の授業実践を国立大学附属小学校で行い,その後,評価問題を作成・実施した。さらに,児童の回答をもとに試作した評価問題の検証を行った。 評価問題は,本質的な数学的な思考をみとることをねらった。作成上の留意点は,授業で扱った問題と同じ問題ではなく,異なった文脈で発問することである。授業で獲得した数学的な思考が,新たな問題場面で活用できるまでに高められたかどうかを評価する。 ①小学校5年「分数と小数」,②小学校6年「分数のわり算」,③小学校5年「四角形と三角形の角」の3例をもとに考察する。 ①では,問題解決過程で表れた発想やつまずきをもとに,選択式問題と理由を記述する問題を作成し実施した。理由記述の中に数学的思考が表現され,ねらいにせまるみとりができた。一方,選択式では必ずしも本質的な数学的考えを顕在化できたと言えず,選択肢の作成方法に課題が残った。②では,問題数値は異なるが授業場面を想定し,ある児童の考えを文章でよみ,式で説明する問題を作成した。児童の回答から授業中に理解した考えを生かして記述する姿が見られ,数学的思考をみとることができた。一方,本当に理解しているか判断できない記述も見られ,表現させる方法に課題が残った。③では,授業中の児童相互の議論を再現する記述問題と児童の考えを発展させて考える記述問題を作成した。児童の回答から,数学的な考えとして焦点化した演繹的な考えをみとることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「授業後の評価問題」を開発し,それらを分析し妥当性を検証することができた。 評価問題のねらいは,本質的な数学的な思考をみとることであり,授業で扱った問題と同じ問題ではなく,異なった文脈で発問することである。授業で獲得した数学的な思考が,新たな問題場面で活用できるまでに高められたかどうかを評価する。これらのことは,評価問題作成の基本方針として位置づけられた。 評価問題の作成には次の課題が現れたため,本年度作成した評価問題をさらに改良する必要がある。 選択式問題では,本質的な数学的考えを顕在化させる選択肢の作成が必要である。記述問題では,本当に理解しているか判断できない記述も見られ,数学的表現方法の工夫が必要である。 評価問題は,小学校高学年に限られている。低学年や中学年での授業実践,評価問題作成を行う必要がある。また,問題数を増やすこともこれからの課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,評価問題の作成・実施を継続する。選択式問題では,本質的な数学的考えを顕在化させる選択肢の工夫,記述問題では,数学的表現方法の工夫を行う。さらに,よりよい問題作成に向け,児童の回答傾向を分析し,素朴な発想や実際に現れたつまずき,ミスコンセプションを選択肢として作り直していくことによって,数学的思考のみとりを一歩踏み込んで実施できると考える。 次に,これまでの研究成果である(ア)質的な評価と,昨年度の研究成果である(イ)量的な評価問題による評価を,相互に関連させて,算数・数学科における思考力・判断力・表現力を総合的に評価する方法を提案する。開発した評価問題を実施し評価問題の結果の分析を行う。この分析と,授業中のノート記述・学習感想の分析を照らし合わせて,児童・生徒の数学的な思考力・表現力を総合的な評価を行う。具体的には,研究協力者と小学校の教員との合同研究会を開催し,プロトコール分析とノート記述・学習感想の分析,評価問題の回答分析と考察を行う。(ア)これまで行われてきた数学的記述からみとる質的な評価(ノート記述・学習感想の分析)と,(イ)本研究で開発した質問紙による量的な評価(問題の分析)を連携した数学的な思考力・表現力の評価方法を確立する。数学的な思考力・表現力の評価について成果と課題を明らかにし,本研究の研究発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の使用金額の残りがある。設備備品費,文献購入費と会議費等の一部を調整し,平成25年度へ繰り越したためである。平成25年度の研究費の使用計画は下記のとおりである。 「設備備品費」…評価問題の開発にあたり必要な文献購入のため 「消耗品費」…授業分析のために,デジタルカメラ等の機材購入,データ管理用の消耗品購入,ノートパソコンの周辺機器の補充を行うため 「旅費」…資料収集,研究発表のため,日本数学教育学会,公開研究会,新算数教育研究会セミナーへの旅費 「その他」…学校の教員との研究会合のための会議費
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