2012 Fiscal Year Research-status Report
陸域の災害や人類活動が半遠洋的環境の堆積作用に与えたインパクトの解明
Project/Area Number |
24650603
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
白井 正明 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (50359668)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 半遠洋性堆積物 / ダム堆積物 / 鉛210同位体 / 過剰鉛210濃度 / 堆積速度 / 洪水 |
Research Abstract |
1.半遠洋性堆積物の過去約100年間の堆積速度測定 (1)鉛210(Pb-210)濃度測定:ガンマ線スペクトロメーターの校正用標準試料を更新し,本研究に使用する陸域近傍の深海の堆積物(半遠洋性堆積物)試料のうち,泥質堆積物のみからなる熊野沖の7地点,遠州沖の4地点のコア試料のPb-210濃度測定を行った.大気中より水中・海底に降下した「過剰Pb-210」濃度の変化を求め,下記(2)の補正を加えることで,過去約100年間の堆積速度を推定できる. (2)「真の堆積速度」の算出:熊野沖の全試料と遠州沖の1地点の試料については,深海の泥質堆積物に含まれる多量の水による「厚さの水増し」を補正するための乾燥重量および孔隙率の測定を終えた.水分含有量を取り去ることで,過去約100年間の堆積粒子沈積速度(真の堆積速度)を見積もることができる.熊野沖の水深約2000 m の熊野トラフでは,トラフの陸側縁辺に伸びる海底谷沿いの堆積速度が概ね 0.02 g/cm2/yと,過去100年間で特に変化が認められないのに対し,その南側からトラフ中央部にかけては1950年前後を境に,堆積速度が0.04 g/cm2/y 程度から約0.01 g/cm2/yに減少していることを確認した.これは熊野川から海域に流出する堆積粒子のうち,海底谷内を流れ下る粒子の輸送には大きな変化がないものの,海底谷内を流下しない懸濁物質の輸送量が1950年頃より低下した可能性を示唆する.遠州沖で「真の堆積速度」を算出したコア試料は海底谷内に位置するためか,堆積速度はほぼ一定であった. 2.陸上の泥質堆積物の採取:9月と3月の2回,遠州灘に注ぐ天竜川の中流~河口域で泥質堆積物試料の採取を行った.特に3月の調査では水位の下がった佐久間ダム湖において,大量の泥質試料を採取した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
半遠洋性堆積物のPb-210濃度測定は順調に進んでいる.当初は半遠洋性堆積物試料のうち,陸域~浅海から流入した砂質層(タービダイト)を挟むものも積極的に測定する予定であったが,試験的な測定の結果,それぞれの海域における半遠洋性堆積物の平均的な堆積速度(堆積粒子沈積速度)を優先的に見積もることとし,まずは砂質層を挟まない試料について測定を行った.熊野沖,遠州沖の泥質試料のPb-210濃度測定は既に終了し,熊野沖の試料については既に孔隙率の測定も終えた.その結果上述のように,過去100年間程度堆積速度に大きな変化がない海底谷と,1950年前後に堆積速度が著しく減少するそれ以外の地域に大別される可能性が示されている.現在のところ,以上の差異は泥質粒子の輸送形態の違いによって引き起こされると仮説をたてている. また天竜川中流~河口域において泥質試料の採取を行った.3月の調査では水位の下がった佐久間ダム湖において,大量の泥質試料を採取し,現在Pb-210測定のための試料処理中である.夏季~秋季の出水状況に応じて熊野川または信濃川河口域でも泥質試料の採取を行う予定であったが,2012年には著しい増水はなかったため,調査を次年度に見送った.
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Strategy for Future Research Activity |
1.半遠洋性堆積物のPb-210濃度測定:引き続き半遠洋性堆積物のPb-210濃度測定を行う.今後測定する新潟沖の試料では,信濃川・阿賀野川河口前面の陸棚上(水深200m以浅)に広く分布する泥質堆積物も含まれている.これらの試料のPb-210濃度測定を行うことにより,河川域より流れ込む泥質堆積物のPb-210濃度が深海環境と比較して十分大きいか検討することができる. 2.半遠洋性堆積物の過去約100年間の「真の堆積速度」の算出:遠州沖と新潟沖の試料の乾燥重量および孔隙率の測定を行い,Pb-210濃度変化を補正することにより,過去約100年間の堆積粒子沈積速度を見積もる.これにより熊野沖を含む各海域での平均的な泥質堆積物の堆積速度を見積もるとともに,遠州沖と新潟沖でも熊野沖の試料の解析結果(の一部)より示唆されている,1950年前後における堆積速度の低下が見られないか検討する. 3.陸域と深海域のPb-210濃度の比較:佐久間ダム湖の堆積物のPb-210濃度の測定を行い,遠州沖の半遠洋性堆積物のPb-210濃度と比較する.また信濃川下流(および河口前面の陸棚),熊野川中流~下流域の泥質堆積物の採取・Pb-210濃度測定を行い,同様に半遠洋性堆積物のPb-210濃度と比較する.陸上~河口前面の泥質堆積物のPb-210濃度が半遠洋性堆積物のPb-210濃度に比べ十分高い場合には,更に半遠洋性堆積物に挟まれる砂層の直上の泥質堆積物のPb-210濃度を測定し,陸上から洪水により直接運搬された砂層の特定を試みる. 4.半遠洋性環境に人類活動が与える影響の評価1950年前後に半遠洋的環境で堆積速度の低下が広く認められる場合,要因として有力なのは,ダム建設などによる河川下流域-海域への土砂供給の低下である.粒度分析等により,ダム堆積物と半遠洋性堆積物との関連性を別の角度から検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
大規模出水が生じなかったために平成25年度に先送りした信濃川・阿賀野川の河口域での調査(および堆積物の採取)を行う.平成25年度は大規模出水が生じなくとも,梅雨期後半/直後の7月下旬に調査を実施する予定である.その際試料採取の補助として,大学院生を1,2名同行させる予定である.
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