2013 Fiscal Year Research-status Report
陸域の災害や人類活動が半遠洋的環境の堆積作用に与えたインパクトの解明
Project/Area Number |
24650603
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
白井 正明 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (50359668)
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Keywords | 半遠洋性堆積物 / ダム堆積物 / 鉛210同位体 / 過剰鉛210濃度 / 堆積速度 / 洪水 |
Research Abstract |
1.半遠洋性堆積物の過去100年間の堆積速度測定 (1)鉛210(Pb-210)濃度測定:ガンマ線スペクトロメーターを用いて,熊野沖で1地点,新潟沖で4地点のPb-210濃度測定を行った.堆積速度を見積もるため,得られた測定記録から過剰Pb-210濃度の変化を算出した. (2)「真の堆積速度」の算出:熊野沖の1地点,新潟沖の3地点の試料について,孔隙率の測定を行い,試料採取時の水分含有量を補正することにより,コア試料の「真の堆積速度」を求めた.新潟沖の堆積速度は全般的に大きく,Pb-210測定を行ったコアの内2本は20世紀の堆積速度の変化を議論するに十分な長さの試料を得られなかったことが判明した.阿賀野川河口沖の海岸線からより遠いコア試料では,1970年頃に堆積速度の低下が認められた. 2.陸上の泥質堆積物の採取 9月の台風で増水した直後の信濃川,2012年に多数の土石流災害が発生した熊野川で,それぞれ泥質試料採取を行った.また前年度に天竜川水系佐久間ダムで採取した泥質堆積物のPb-210濃度測定を行った.佐久間ダム湖の泥質堆積物は海域の試料と比較して時間あたりの過剰Pb-210量は大きいが,堆積速度が大きいため堆積物単位量あたりの濃度はあまり差異がないことが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,(A) 過剰Pb-210濃度を用いてタービダイト泥と半遠洋性泥質物を判別することができるか明らかにする,(B) 過剰Pb-210濃度変化の状態から,半遠洋的環境に人類活動がどの程度の影響を与えているか検討を加える,以上の2点に大別される. (A) については引き続き試料の分析・結果の検討を続ける必要があるが,Pb-210濃度からタービダイト泥と通常の泥質堆積物を区別することは難しいとの結論を得つつある. (B) に関連して,各海域でより遠洋側にあたる,熊野沖の3つのコア試料,遠州沖の1つのコア試料,新潟沖の1つのコア試料から,20世紀半ばの堆積速度の低下が認められた.多くのコア試料の分析を行った熊野沖では19世紀末に大規模水害が発生しており,土砂の流出が20世紀前半の堆積速度の増加を引き起こし,その収束が20世紀半ばの堆積速度低下として現れた可能性があったが,日本海側でも堆積速度の低下例が認められたことで,堆積速度の低下が日本全域に及ぶ可能性が高くなった.半遠洋的環境での堆積速度低下は,その同時性,粒度の共通性などから,河川に建設された大規模ダム湖中に泥質粒子が捕捉されたことが原因である可能性が高いと推定された.
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Strategy for Future Research Activity |
上記 (B) に関して,新潟沖の泥質堆積物からなるコア試料のうち,海岸線から比較的遠方に位置する4ヶ所についてPb-210濃度と水分含有量を測定し,引き続き堆積速度(の変化)を求める.また堆積速度の変化が認められたコア試料について,堆積速度低下時にダム湖の成立を示す直接的な指標を得られないか検討中である. また (A) に関しては,佐久間ダム湖以外の陸上水域で採取された泥質試料の過剰Pb-210濃度を測定すると共に,タービダイト直上泥質堆積物のPb-210濃度を測定し,Pb-210濃度からタービダイト泥と通常の泥質堆積物を区別することができないか,引き続き検討を加える.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究初年度に購入したガンマ線スペクトロメーター用の標準試料(校正用線源)の劣化が予想より早く,平成26年度前半に新しい標準試料を購入した方がより正確な測定結果を得られることが判明した.検討の結果,平成25年度に予定していた炭素同位体測定費(試料となる木片等がコア試料中から見出されず)と,消耗品代の大部分を平成26年度予算に加えることにより,標準試料購入費(および古い標準試料の改修費)との試算が得られたので, 調査用具代・実験用具代の使用を控えた. 平成25年度未使用額の大部分は,上記の通りガンマ線スペクトロメーター用標準試料購入費に充てる.未使用額の残金は,陸上水域の泥質試料の追加採取用の旅費として使用する予定である
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