2012 Fiscal Year Research-status Report
東日本大震災による残留性環境化学物質の海洋生物汚染とその長期モニタリングの検証
Project/Area Number |
24651010
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
田辺 信介 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (60116952)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
磯部 友彦 愛媛大学, 上級研究員センター, 講師 (50391066)
板井 啓明 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 講師 (60554467)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / POPs / 難燃剤 / 微量元素 / 海洋汚染 |
Research Abstract |
東日本大震災により、137Csなど放射性物質による環境汚染が深刻化しているが、懸念される化学汚染はこれだけではない。本研究では、海洋への大量流出が危惧され、長期間生物に蓄積して健康リスクを脅かす残留性有機汚染物質および微量元素に注目し、その生物汚染の暴露実態解明を通して長期モニタリングが必要な物質群を選別・特定することを目的とする。まず、現地調査を実施して魚介類試料を採取・採集した。これまでに収集しes-BANKに保存されている魚種を中心に20種を選定して漁協等に依頼し、延べ約160種600検体を入手した。一部のPOPs候補物質(ハロゲン化代替難燃剤・有機リン系難燃剤)については、魚類試料を対象とした分析法を確立した。さらに、既存のPOPs(PCBs等)・POPs候補物質(PBDEs・HBCDs)・微量元素(Pb, Hg, Cd等)を分析し、生物環境試料バンク(es-BANK)に冷凍保存されている震災前の魚介類試料と比較することで、震災による汚染レベル上昇の有無を検証した。その結果、2007年と2012年の魚類中PCBs・PBDEsの濃度範囲に有意な差は認められなかった。濃度の上昇傾向が認められなかった原因として、両年に採取・分析した魚種が同一でないためと考えられた。そこで、両年に採取された同一魚種(サンマ・カツオ・サバ・キハダ・ブリ・サケ・キハダ)を選定し、PCBs・PBDEs・HBCDs蓄積レベルを個々の種について比較した。その結果、PCBsについては、2007年に比べ2012年の検体で高値が認められた。重金属類については、2007年と2012年の試料間で顕著な変化は認められなかったが、As, Cd, Vなど一部の元素については、震災後の濃度上昇が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に計画した内容、すなわち(1) POPs候補物質の分析法開発、(2) 魚介類試料の採集、(3) 既存POPs・POPs候補物質・微量元素汚染の実態解明、は順調に推進され、ほぼ予定通りの進捗状況といえる。汚染レベルの経年変化については、過去の試料・今年度の試料ともに数量が限られること、および魚種や採取地・時期の違いが原因で震災の影響を明確化できなかった部分もあるが、25年度以降の継続調査で試料を充足し目的を達成したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は魚介類・鯨類試料の分析を進め、汚染レベルの経年変化の解明研究に取り組む。鯨類の分析部位として有機汚染物質は皮下脂肪を、微量元素は肝臓を供試する。リン酸エステル系難燃剤など一部のPOPs候補物質については高等動物の分析例が皆無であるため、分析精度の確認・相互検定等を通じて信頼性・実用性の高い分析法を確立する。鯨類の試料は、沿岸性の種としてネズミイルカ(Phocoena phocoena)を、近海・外洋性の種としてイシイルカ(Phocoenoides dalli)を供試する。これらの鯨種は東北・北海道の沿岸および沖合で震災以前に混獲・漂着・座礁した個体の臓器・組織試料が愛媛大学のes-BANK に冷凍保存されている。また、震災以降の試料も逐次愛媛大学に搬入されつつある。また、地震発生の1 週間前に茨城県沿岸に座礁し、es-BANK に冷凍保存された鯨類カズハゴンドウ(Peponocephala electra)の臓器・組織試料も分析に供試する。一般に鯨類に蓄積する有害物質は、性および年齢によって濃度が変動することが知られているため、本研究ではほぼ同体長の雄の組織を供試する。魚介類同様、震災前後の分析データを比較して震災による化学物質流出の影響を検証するが、鯨類と魚介類の差異にも注目し、震災による有害物質暴露と食物連鎖の関係を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き、被災地域における魚介類試料・鯨類試料入手のための調査旅費・試料輸送費等を計上する。物品費は魚介類・鯨類の解剖調査、および新規POPs・POPs候補物質・微量元素等の化学分析のための実験器具・試薬・機器消耗パーツ・ガス等の購入に使用する。機器・設備等は既設のものを活用するため、備品費は計上しない。また、得られた成果は国内外の学会で発表するため、旅費を計上する。
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