2013 Fiscal Year Research-status Report
東日本大震災による残留性環境化学物質の海洋生物汚染とその長期モニタリングの検証
Project/Area Number |
24651010
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
田辺 信介 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (60116952)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
磯部 友彦 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 准教授 (50391066)
板井 啓明 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 講師 (60554467)
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Keywords | 東日本大震災 / POPs / 難燃剤 / 微量元素 / 海洋汚染 |
Research Abstract |
本研究では、東日本大震災により海洋への大量流出が危惧され、長期間生物に蓄積して健康リスクを脅かす残留性有機汚染物質および微量元素に注目し、その生物汚染の暴露実態解明を通して長期モニタリングが必要な物質群を選別・特定することを目的とする。 平成25年度は、当初計画のとおり、震災後の平成23年に死亡漂着したネズミイルカ(Phocoena phocoena)およびイシイルカ(Phocoenoides dalli)の脂皮を化学分析に供試し、震災前後の汚染物質蓄積レベルを比較した。その結果、いずれの種でも既存POPs・POPs候補物質の蓄積レベルに有意な差は認められず、津波等で海洋に流出した化学物質の暴露は対象鯨種に及んでいないことが明らかとなった。しかしながら、既存POPs・POPs候補物質は水溶性が低く海水を介した拡散速度が遅いこと、および食物網を介して生態系高次の鯨類に高蓄積するには数ヶ月~数年の時間が必要なこと、などを考えると、モニタリングを継続して今後の汚染物質レベルを注視する必要がある。また、カズハゴンドウについては、震災直前に大量座礁した検体の化学分析を実施してデータを得たが、震災後は今のところ漂着事例がなく、震災の影響を評価する段階に至っていない。魚類試料を対象とした調査を継続して実施し、25年度に採取した試料についても既存のPOPs(PCBs等)・POPs候補物質(PBDEs・HBCDs)・微量元素(Pb, Hg, Cd等)を分析した。その結果、栄養段階低次の魚類に着目すると、平成19年に比べて24年・25年の試料で魚類中PCBs・PBDEs濃度が有意に高値を示し、震災時に流出したこれらの化学物質が低次生物に暴露・蓄積したものと推察された。また、Cd・Asなど一部の重金属等についても震災後の濃度上昇が疑われたため、中長期的な継続調査が必要と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度に計画した内容、すなわち(1) 鯨類試料の既存POPs・POPs候補物質蓄積レベルの震災前後の比較、(2) 魚介類試料の採集継続と既存POPs・POPs候補物質・微量元素汚染の経時的推移解明、は順調に推進され、ほぼ予定通りの進捗状況といえる。汚染レベルの経年変化については、過去の試料・今年度の試料ともに数量が限られること、魚種や採取地・時期の違いが原因で震災の影響を明確化できなかった部分もあるが、栄養段階の評価により一部の物質について震災後の濃度上昇が疑われる結果も得られているため、26年度の継続調査で試料を充足し確証を得たいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の調査で、一部の物質について低次栄養段階の魚種の濃度上昇が疑われる結果が得られたため、引き続き魚介類の収集と化学分析を進め、安定同位体比を用いた食物網解析に基づいて震災前後における汚染レベルの変化を解析する。また、リン酸エステル系難燃剤・ベンゾトリアゾール系UV吸収剤については、25年度に一部の試料の分析が完了しなかったため、26年度に補足分析を実施して蓄積レベルの経時的推移を解析する。既存POPs・POPs候補物質・微量元素のデータを解析・考察し、国内外の学会・学術誌等に公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、気仙沼漁協・八戸みなと漁協等の協力により、当初計画よりスムーズに魚介類試料の収集が実現したこと、および大学と運送業者の一括契約を利用することで送料を抑えることができたことなどから、使用経費を節減することができた。 平成26年度は、引き続き被災地域における魚介類試料・鯨類試料入手のための調査旅費・試料輸送費と化学分析に必要な経費を計上する。物品費は魚介類・鯨類の解剖調査、魚類試料購入経費、および新規POPs・POPs候補物質・微量元素等の化学分析のための実験器具・試薬・機器消耗パーツ・ガス等の購入等に使用する。とくに、POPs候補物質の分析精度向上に必要な内部標準物質や高純度有機溶媒の購入に費用が嵩むため、助成金の繰り越し分を充てる。機器・設備等は既設のものを活用するため、備品費は計上しない。また、得られた成果を国内外の学会で発表するため、旅費を計上する。
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