2012 Fiscal Year Research-status Report
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24651011
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
北 逸郎 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (10143075)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 水銀 / 海洋底堆積物 / 北大西洋 / 有機物 / 窒素同位体比 / 炭素同位体比 / 氷床拡大期 / 千年周期 |
Research Abstract |
大陸氷床の出現・発達期(300~200万年前)とその後の氷床拡大・縮小に伴う北大西洋海域の表層水塊の温度構造の成層化とその崩壊現象をミレニアムスケールで解析する新化学指標を確立する目的の初年度(24年度)の研究対象試料として,IODP によって北大西洋の掘削されたSite U1308の現在から過去約110 万年前まで堆積物コアの250試料を用いて,水銀含有量と,植物性石灰質ナンノ化石の上部・下部透光帯種数,有機窒素・炭素含有量 (TN・TOC 量) およびそれらの同位体比 (δ15N値・δ13Corg値) を測定しそれらの変動関係を明らかにした。 水銀含有量変動は,同コア試料でHodell et al. (2008) が堆積物中のSi / Sr 比に基づき報告した漂流岩屑堆積物(Ice-Rafted Debris, IRD)量の分布とよく一致し,古気候変動のミランコビッチ周期と同様の10 万年,4.1 万年および2.3 万年を与えた。この世界で初めて発見に加え,植物プランクトンの上部透光帯種量と逆相関,TN・TOC 量と正相関で変動し,それらのδ15N値とδ13Corg値は,この有機物の起源が海成であることを示した。 この数万年スケールの北大西洋の植物プランクトン化石量と彼らの生産有機物量に連動したその水銀の気候変動の発見は,氷期に北大西洋に流出したIRDと水銀を含む氷山が,氷期から間氷期への移行期に透光帯で融解し,この時付加された海洋水銀を植物プランクトンの下部透光帯種が主に消費・有機水銀化し,かれらの死骸と共に堆積したメカニズムを提唱できる点に意義がある。この集積・堆積水銀メカニズムは,千年スケールでの北大西洋の堆積水銀量解析に普遍化でき,堆積水銀量変動が氷床拡大縮小現象の重要な化学指標となりえる可能性を得た点で重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
氷床の拡大・縮小に伴う短期間の海洋表層水塊構造の気候変動の研究は、現在の気候変動にも重要な研究課題であるが,その化学的手法はほとんど報告されていないため,海洋堆積水銀量を数万年からミレニアムスケール(数千年単位)の気候変動研究の普遍的な化学指標とすることを目的とする。平成24年度では,北大西洋IODP Site U1308の現在から100万年間の数万年スケールの堆積水銀量変動は,漂流岩屑堆積物(IRD)量変動とよく一致し,古気候変動のミランコビッチ周期と同様の10 万年,4.1 万年および2.3 万年を与えることの世界初の発見を成し遂げている。かつ,氷期に北大西洋に流出したIRDと水銀を含む氷山が,氷期から間氷期への移行期に透光帯で融解し,この付加水銀を含む海洋水銀を植物プランクトンの下部透光帯種が消費・有機水銀化し,かれらの死骸と共に堆積する集積・堆積メカニズムを明らかにできた。 我々が赤道海域で提唱してきた海洋水銀の植物プランクトン下部種による消費・有機水銀化する集積・堆積メカニズムが,北大西洋にも適用できたことは,期待通りの結果であり,海洋堆積水銀による透光帯水塊構造の気候変動研究に,水銀を普遍的な化学的指標を確立する上で重要な成果である。したがって,この成果は,化学的手法がほとんど報告されていない大陸氷床の出現・発達期(300~200万年前)(特に急激な気候変動が期待できるガウス-マツヤマ地磁気逆転境界(約2.58Ma)とその前後)の氷床拡大・縮小に伴う北大西洋海域の透光帯水塊構造の気候変動をミレニアムスケールで解析する新化学指標を確立する上で,堆積水銀量と海洋水銀の集積堆積メカニズムの有効性が評価できた,研究手法にも問題が無く,平成24年度の研究計画の目的を十分に達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
北大西洋における数千年スケールでの堆積水銀量と植物プランクトンの微化石の群集変動および彼らが生産した有機物量およびその窒素・炭素同位体比の変動関係を明らかにするために,北大西洋で掘削された堆積物コアで,堆積速度が速く,特に地球磁場が逆転したガウス-マツヤマ境界(GMB)(約2.58Ma)の堆積物コアを含むIODP Hole U1314の堆積物コアを入手している。平成24年度では研究手法にも問題がないため,まず,氷床の発達・拡大期(300~200万年前)の中で,最も大きく明確な変動がある250年前(MIS99)から255万年前(MIS101)の5万年間の約250試料を選定し,平成24年度と同じ植物性ナンノプランクトンの群集解析と化学・同位体分析と漂流岩屑堆積物量(IRD)の分析(1部は24年度実施発表済)を行い,それらの分析データの変動に数千年スケールの周期性が存在すること,およびその海洋水銀の集積・堆積メカニズムを解明する。 加えて,そのX線回折実験による石英や層状ケイ酸塩鉱物量の測定および振動試料磁力計による高温磁気分析とMPMS帯磁率計による低温磁気分析に基づく磁気鉱物種の同定と起源の推定を行う。さらに,MIS101以前の255万年前から290万年前のガウス-マツヤマ境界(GMB)(約2.58Ma)を含む同データセットの分析とその解析を行い,氷床発達・拡大期初期(250万年前から290万年まで)からU1308の現在から100万年前までの結果と比較し,氷床発達期から第四紀全期間に亘る上記データの変動幅や変動関係の推移と普遍的関係ならびに磁場逆転現象が及ぼす海洋環境への影響などの有無を明らかにする。 これらの結果から,海洋水銀の普遍的な集積・堆積メカニズムを構築し,北大西洋海域における氷床拡大縮小現象と海洋気候変動をミレニアムスケールで解析する新らたな化学手法を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究計画には問題がなかったので,平成25年度の研究経費の使用計画には大きな変更はない。平成25年度の研究では,IODPで掘削されたU1314の海底堆積物コア試料(約500個)がすでに確保・準備されているため,その搬送費は不要である。海洋水銀の集積・堆積メカニズムの解明に不可欠な植物性石灰質ナンノ化石の上部・下部種などの化石群衆の変動を研究するための生物光学顕微鏡とその画像装置は,すでに平成24年度の研究経費で購入済みである。消耗品として,堆積水銀量の測定には,当初水銀装置内の有機物燃焼管の汚染のため,その燃焼管の交換経費を見込んでいたが,添加剤の使用で十分にその汚染を軽減・防止できることが判明したため,燃焼管よりも添加剤の経費が不可欠である。ナンノ化石群集の鑑定のためには,プレパラート作成のためのスライドグラスや光硬化剤が不可欠である。また,多量な海洋堆積物コア試料中の無機炭酸物質を溶解しその中の有機物を汚染無く完全に回収するために,多量の高額なメンブランの購入が不可欠である。加えて,その有機窒素・炭素量とそれらの同位体比分析のための多量なスズ箔のために高額な経費と,IRDの鉱物分析用試薬と帯磁率測定の寒剤(He)が必要である。さらに,500個以上に及ぶ各種実験の多量な分析実験を計画年度内に実施するための謝金が必要である。また,研究代表者と連携研究者である秋田大学の佐藤教授との研究打ち合わせや佐藤教授による研究協力者(院生)のナンノプランクトンの群集解析の実地指導のための旅費(福岡―秋田など)に加えて,国内外の学会発表のための出張旅費や最終年の報告書の印刷経費とホームページ作成経費の使用を計画している。
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