2012 Fiscal Year Research-status Report
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24651012
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉村 和久 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80112291)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松岡 史郎 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10219404)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 磯焼け / 河川水 / 洪水流出 / 溶存鉄 / 固相分光法 / スペシエーション分析 |
Research Abstract |
近年,沿岸域の藻場が消失する“磯やけ”が深刻になってきている.その原因の一つとして,陸域からの溶存鉄(おもに有機錯体)の供給量の減少があげられている.とくに洪水時に河川を通じて供給されるFe(II)濃度が減少したことがその原因であるという作業仮説を立て,Fe(II)を現場でN2雰囲気化で固定し,研究室に持ち帰ってただちに分析する手法を確立した. 1,10-フェナントロリンを呈色試薬として用い,試料25 cm3中のFe(II)を呈色錯体としてMuromac AG 50W-X2陽イオン交換樹脂0.06 cm3に濃縮し,その光吸収を通常の分光光度法で測定する固相分光法で定量を行った.溶存全Feは,ヒドロキシルアミンでFe(III)を還元した後に同様の操作で定量ができた.検出限界(3σ)はFe(II) 0.07 μg dm-3と全Fe 0.09 μg dm-3であった. 多々良川水系 九州大学農学部附属福岡演習林および雨水橋,室見川において平水位および降雨後の増水時の採水を行った。得られた測定結果から,通常の酸素分圧下ではほとんど存在しないと考えていたFe(II)が,山地渓流水中でも数μg dm-3レベルで存在することがわかってきた.リターなどが堆積した淀みでは局所的還元環境が存在するためであると推定できた.さらに,人為的な有機汚濁の程度が高くなる中流域の淀みでは,数十μg dm-3のFe(II)が検出された.また、降雨時には流量は増加しているにもかかわらず,5~15 μg dm-3のFe(II)が溶存することが確認された.そこで,沿岸域でのFe(III)-有機錯体形成のための鉄のソースは河川の底質や淀みの下部に蓄えられたFe(II)であり,増水時にFe(II)が海域に短時間に供給され,酸化される過程で有機錯体となっている可能性が高いことが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体としては,ほぼ目的を達成できたと評価できる.作業仮説の妥当性はほぼ確認することができた.ただし、個別の項目に関してはすこし問題点が残ったので,次年度の改善を図る. 1.固相分光法による超微量Fe(II)のオンサイト分析法を確立することにしていたが,測定の再現性にまだ問題が残ることが分かった。簡易分析装置を固相分光法に応用するためには、経験と情報の蓄積が足りなかったためである. 2.窒素気流下でのオンサイト採水法に関しては,ほぼ確立することができた. 3.洪水時の分析が一度しか行えなかった.方法論の確定に手間取ったためである.
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Strategy for Future Research Activity |
1.固相分光法による超微量Fe(II)のオンサイト分析法の確立: 当初,オンサイト分析まで行うことにしていたが,実際に簡易分析装置(サトダサイエンス社製固相分光測定器SP-301型)にLEDを光源としたシステムを用い,現場で分析操作を行ったところ,検出限界が 0.8 μg dm-3程度と,まだ十分な信頼性を得ることはできなかった.そこで,さらに改良を加え,さらに信頼性の高いオンサイト分析法を確立する. 2.増水時の河川水中および沿岸海水中の溶存鉄のスペシエーション分析: 福岡(多々良川および室見川流域で、増水時に海域に運ばれるFe(II)フラックスを分析値と流量から見積る.また,沿岸海域に定点を設定し,降雨後の海水中Fe(II)と全Fe濃度の経時変化を追跡し,Fe(II)の動態を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
溶存鉄のスペシエーション分析法はほぼ確立できたので、研究費は、おもに消耗品代よ旅費(試料採取および成果発表)に用いる予定である。
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