2012 Fiscal Year Research-status Report
ppm量元素の化学状態をプロキシとした、海洋pHの光科学的復元法の開発
Project/Area Number |
24651021
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
為則 雄祐 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 副主幹研究員 (10360819)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 生物炭酸塩 / 軟X線吸収分光法 / 蛍光X線分析 / 古環境 |
Research Abstract |
大気圧環境下で軟X線をプローブとした微量元素分析を可能とするため、窒化ケイ素膜(SiN4)を真空窓として使用した半導体検出器を導入し、その性能テストを実施した。窓材としてSiN4を使用しているため、分析可能な元素は窒素よりも重い元素(400eV以上)と限定されるが、サンゴや二枚貝を用いた試験測定においてNa, Mg, Al, P, Sといった軽元素を検出することができた。また、数100ppm濃度の元素については数秒で蛍光X線分析が可能であり、XAS分析と組み合わせたXAR/XAS分析法として、微量元素の非破壊化学状態分析法を確立した。本手法を用いて、硫黄のXRF/XAS分析を多様な生物炭酸塩について実施し、その中には複数の化学形態を持つ硫黄が混在していることを明らかにした。また化学形態は試料の部位に対して強い依存性を持っており、骨格部分には無機的な硫酸塩が、二枚貝の殻皮などの生物組織的な部分にはS-C結合やS-H結合をもつ有機硫黄分子が多く分布していることが明らかとなった。本年度の研究により、ppm濃度の微量元素の化学状態を非破壊で分析可能なXRF/XAS法の基礎的技術を確立することができた。 また、半導体検出器を用いて微量なホウ素の蛍光X線信号を検出可能かどうか調査を行った。本研究で開発した窒化ケイ素膜を使用した検出器ではホウ素のKα線はほとんど透過しないため、既存のポリイミド膜を使用した検出器によって、ホウ素の検出を試みた。しかしながら、ホウ素のK殻電子励起では蛍光X線緩和確率がきわめて小さく(0.002%)、また、ホウ素のKα線の真空窓の透過率が数%と低いため、1000ppmよりも低濃度のホウ素を捉えることができなかった。ホウ素の検出には今後半導体素子の多素子化などが必要であり、本研究課題ではホウ素の分析を中心として策定した研究計画を一部修正することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
半導体検出器を用いた蛍光X線分析法を軟X線領域に適用することにより、ppm濃度の微量な軽元素の化学状態を非破壊で分析可能とした。また、蛍光X線分析と軟X線吸収分光を組み合わせ、XRF/XAS法として微量元素の化学形態を識別する手法を開発した。本手法を二枚貝やサンゴなどの生物炭酸塩試料に適用し、有機・無機体を識別した硫黄の分析に成功した。これらの研究により、化学形態を識別しつつ微量元素を分析するための技術基盤を確立することができた。また本成果は、国内主要学会において招待講演を行うなど、すでに高い注目を集めるに至っている。 開発した手法を用いて、ホウ素から硫黄までの軽元素の検出限界などを調査した。また、サンゴや二枚貝などの生物炭酸塩試料に本手法を適応し、微量元素の化学形態識別の予備的な検討を進めた。その結果、微量なホウ素は蛍光X線分析法では検出が困難なこと、リン・硫黄などの元素は高い感度で分析可能であり、またレドックスが大きいために化学形態を高い精度で識別可能であることなどが明らかとなっている。これらの研究により、次年度以降の研究方針を確定することができたことから、概ね当初の予定通りに研究が進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は、ホウ素に焦点をあてて生物炭酸塩中の微量元素分析を行う計画であった。しかしながら、初年度の研究により、微量のホウ素の検出は原理上大きな困難が伴うことが確認された。そこで、今後は研究対象を一部修正し、蛍光緩和確率が高い比較的大きな軽元素を対象としてさらに研究を進める。具体的には、リン・硫黄を対象として研究を進める。これまでの予備的な分析から、これらの元素は海洋の栄養塩循環と密接な関係が関係を持つことが示唆されている。そこで、これらの元素の化学形態を識別し、特にアミノ酸やタンパク質など有機的な特徴を持つリンや硫黄のスペシエーション分析をXRF/XAS法によって行う。二枚貝・サンゴなど、成長線構造を形成する試料を網羅的に分析し、試料の各部位とそこに含まれるリン・硫黄の化学形態を明らかにする。さらに、成長線構造とこれらの分子の含有量の関係について研究を進める。これらの研究によって、軽元素の化学形態を環境指標として利用するための基礎的知見を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初は差動排気機構を備えたX線検出器を開発する計画であったが、窒化ケイ素膜(SiN4)を真空窓として使用した真空封止型の半導体検出器を開発することで、必要な仕様を満たす検出器を入手することができた。結果、予定していたよりも低い開発費で検出器を製作することができたため、物品費に余剰金が生じた。 発生した余剰金は本年度分の予算と合算し、主として①検出器の真空窓に生じた破損の修理、②測定試料ならびに標準試薬の購入、③SPring-8消耗品実費負担費、に充当する。それにより、開発した手法を用いた網羅的な環境指標探索を進める予定である。また、得られた成果を発表するための、学会参加費・旅費にも割り当てる予定である。
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Research Products
(7 results)