2012 Fiscal Year Research-status Report
津波塩水化プロセスの解明を起点とした水質診断ネットワークの創出
Project/Area Number |
24651031
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
中野 孝教 総合地球環境学研究所, 研究推進戦略センター, 教授 (20155782)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 津波被害 / 地下水 / 塩水化 / 多項目水質分析 / 涵養域 |
Research Abstract |
東日本大地震、とくに津波による壊滅的な被害を受けた岩手県大槌町は地下水が豊富であり、町の産業や生活に利用されてきた。津波3か月後の水道水の測定結果は、その取水源である浅層地下水に津波による塩水侵入が起こったこと、また沿岸の自噴水についてもその影響が弱いながら見られたことから、2012年の7月に同町の流域全体にわたって調査を行い約60点の水を採取した。 これまでの多項目にわたる水質分析の解析によれば、津波影響を受けていない山地域の表流水の水質は大きな変化を受けていない。いっぽう、津波を受けた大槌川の下流では、震災3か月後でも高塩分を示し、大槌川の右岸に広く分布する地下水プールが津波により塩水化したことを示している。さらに震災1年半を経過しても、右岸側ではその影響が残っていることが明らかになりつつある。 一方、沿岸の自噴水も塩水影響が見られたが、地点による検討を進めた結果、地域性の存在が明らかになってきており、大槌川以外にも涵養域が存在する可能性が強く示唆されている。共同研究者の鷲見准教授は、今年度の5月に一斉の地下水採水を予定している。また5月19日は市民参加を集い、世界初の地下水位の一斉測定を予定している。これにより、大槌町の地下水の全体像が相当程度明らかになると考えられる。このイベントには、愛媛県西条市や山形県遊佐町の職員も参加予定である。 両地域においても分析結果の検討を進めており、遊佐町では2012年12月24日に講演会を開催し、町長をはじめ多くの町民が参加し、湧水を中心とした街づくりに向けた大きな議論が沸き起こっている。今回の調査や水採取の結果は、大槌町に還元する予定である。本研究では、水質診断ネットワークの構築、またそれを介した大槌町震災復興の実現可能性を目指しているが、このような現状は、萌芽研究に値する内容と考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、津波影響を受けた大槌町の表流水や地下水を調べることで、(1)地下水流動や自噴水の形成機構に新しい視点を提供すると共に、(2)湧水・地下水を介した街づくりネットワーク化の可能性を探ることにある。 前者に対しては、多項目水質分析という新しい水文地球化学的な手法を用いたことで、水質情報が格段に増加し、より高精度の水環境診断ができるようになった。水循環研究で用いられてきた水同位体に代わる手法として、塩素など岩石に由来しない元素が利用できること、いっぽう岩石由来の元素については、Sr同位体を併用することで、各元素の大気および岩石からの寄与を定量的に提案できると考えている。 いっぽう後者に対しては、大槌町、遊佐町、西条市のネットワーク強化が図られつつある。とくに遊佐町では、自噴水を含め広域的な多項目水質マップの結果を町民に説明し、湧水の涵養域を特定したことで、保全に向けた取り組みが本格的になされるようになった。遊佐町では、貴重な生態系が維持されている湿地の涵養域としての可能性が明らかとなり、生態系保全との関係においても新たな研究の萌芽になりつつある。 大槌町で実施する一斉採水による多項目水質マップの展開を図るために、より高精度の水質マッピングを計画している。また今年度の検討により、地下水流動に関する発見を福井県越前大野市や静岡県の衛生研究所とも同様な研究を推進しており、萌芽研究の新たな展開が期待できると考えている。いっぽう、本研究では堆積物との相互作用の定量化も視野に入れている。これにつちえは堆積物採取が難しいなどの裳代があるが、定性的な評価を行うことで対応する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度行った調査による水質分析は一部であり、まだ進んでいない項目も多数ある。5月に予定している150地点以上の地下水とあわせて、夏までに集中的に多項目水質分析を実施する予定である。この解析結果を基に、ARC-GISなどの地図ソフトを用いて水質の実態と水の流動の関係を明らかにする。 この研究結果は、可能な限り年度内に大槌町で成果公開シンポジウムとして開催する予定である。これにあわせた勉強会なども検討する。水質という研究者の世界に限定され、一般市民には難しい内容をいかにわかりやすく紹介するか、またその内容を書籍などにまとめる検討も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は今年度で終了するので、その成果を基に科学研究費への申請を検討する予定である。現状でも研究の萌芽性は十分にあると考えているので、基盤研究としての応募を考えている。
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Research Products
(8 results)