2012 Fiscal Year Research-status Report
漆コーティングによる環境負荷が低く強度の高い素焼き製品製造技術の開発
Project/Area Number |
24651083
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
|
Research Institution | Hachinohe Institute of Technology |
Principal Investigator |
水沼 和夫 八戸工業大学, 感性デザイン学部, 教授 (20118201)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 持続可能性 |
Research Abstract |
市販の陶芸用粘土10種類について、800℃、900℃、950℃、1000℃、1100℃の5段階で各10個組の素焼試験片を作成し、5個には漆を10回塗装し、ほかの5個は素焼きのままとして落下試験を実施した。使用した粘土は「益子赤土」「益子水簸土」「信楽陶土」「信楽赤味土」「特練半磁器土」「特練白土」「特練赤土」「美濃白土」「伊賀土」「白御影土」。塗装用漆には中国産漆を用いた。初めの5回は生漆。後半の5回は上朱合を用いた。塗装法としては刷毛を用いた「塗り立て」とした。落下試験では、すべての粘土で漆塗装片が素焼き片を上回る対衝撃強度を示した。追試験が必要と思われるデータも一部にあるが、どの粘土でも焼成温度が高いほど硬度は増加する傾向を示し、漆塗装片は各温度で素焼き以上の強度を示した。 特に大きな効果を示したのは信楽赤味土、特練白土、特練赤土、美濃白土などであるが、素焼きそのものがかなり脆く、漆でコーティングした効果があっても1100ど程度での焼成温度では脆い器にしかならないと思われるものもあった。 研究計画では、この実験結果を受けて、試作品制作に最適な粘土の選定、焼成温度の設定を行うこととしていたが、焼成温度1000℃から1100℃の間での強度増加が著しい粘土が7種類に及んでおり、選択の幅は広い。この結果に漆塗装に対する質的適合性(素焼き面の滑らかさ)を勘案すると「信楽陶土」「特練白土」などが有力と考えられる。 この間、漆工技術関連の情報収集活動等において、素焼きに漆を塗装した場合の剥落防止法として「拭きうるし」の塗装法の採用、上朱合漆から一般的な透き漆による仕上げへの転換など、試作品制作段階で必要となる技術上の知見を得ている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
追試験が必要かと思われるデータもあるが、市販の10種類の粘土で実験した結果として、漆塗装による強度増大は、一般的に確認することができた、と言える。これにより、平成24年度の研究目的はほぼ達成できた。 初期塗装段階で試験片と漆塗膜の確実な密着を促す「拭きうるし」塗装法に転換するための比較試験が加えられることになり、使用粘土の確定には至っていないものの、素焼き面の粗さや質的脆弱性により、本研究の目的には「不適」と判断されるものは特定済みである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の落下試験の追試験を行う。その上で使用粘土1~数種を確定。焼き付けや「拭きうるし」(あるいは「摺りうるし」)を基礎に透き漆等を塗り重ね、焼成温度毎の効果幅を調べて、何通りかの焼成温度を設定する。 試作品のデザイン策定(複数)を行って、制作。その内の1~2種類については、石膏型による制作例とする事ができるように、石膏型を準備。実際に複数個を石膏型で制作する。 これらのために、新旧の漆工技術、陶芸技術について研究、研修を実施。また、石膏型制作技術についても研究、研修を実施する。日本漆の使用も試みる。また、日本漆による落下試験も試み、中国漆の場合と比較する。 これらと並行して素焼き土製品のリサイクル性を立証するための冷凍・解凍実験を行う。1000℃~1100℃での焼成がリサイクル性の分岐点になると思われるが、その点を実際の使用粘土で確認する。屋外の地表や地中に試験片を放置しての同種の実験も行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額(B-A)」24,736円について:年度末に岩手県八幡平市の「漆工技術研究センター」での漆工技術研修を予定したが、スケジュールが合わず次年度に延期した。また、試験片作製が効果的、迅速に行われた結果、試験片作製補助の謝金として準備した予算に残余が出た。次年度は、これを含め924,736円をおよそ以下にて使用する計画である。 1.物品350,000円(デジタルマイクロスコープ、フリーザー、パソコン、掃除機等) 2.旅費250,000円(技術研究・研修等) 3.人件費・謝金100,000円(追試験補助等) 4.その他224,736円(粘土、漆、石膏等実験制作関連消耗品)
|