2012 Fiscal Year Research-status Report
接合制御ジョセフソン素子を用いた低温量子伝導現象の研究
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24651122
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
辻井 宏之 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (10392036)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神原 浩 信州大学, 教育学部, 准教授 (00313198)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 破断接合 / ジョセフソン接合 / 量子化コンダクタンス / トンネル現象 |
Research Abstract |
ブレークジャンクションは、基板を機械的に変形させることによって基板上に設置した金属細線を破断するとともに、破断された細線間の距離をナノスケール以下の精度でコントロールする実験方法で、量子ポイントコンタクトやナノワイヤーなどの微小接合における電気伝導度の研究に用いられている。本研究では、ブレークジャンクションを用いて制御した超伝導接合に様々な物質を挟み込むことで、新奇ジョセフソン・ジャンクションの低温量子伝導現象を探索することを目的としている。 今年度は、ブレークジャンクション装置の開発と低温測定用の冷凍機の整備を行い、4.2 Kまでの実験を行った。冷凍機は、冷却および昇温が速やかに行なうことができ、試料となる金属細線の取替えが短時間で可能となるように、液体ヘリウムベッセルに直接挿入するトップロード型とした。高真空容器中に置いた基板にサンプルとなる金属細線を取り付け低温にした後、低温においたマイクロメータヘッドを室温部から制御し基板をたわませ、細線を破断できるようにした。ジャンクションの距離はピエゾ素子を用いて基板の曲がりを調節することによりコントロールした。4.2 Kまでの低温実験では、金や銅の細線を破断したポイントコンタクトの電気伝導度の測定において、量子コンダクタンスの整数倍のところにステップを持つ電気伝導度の量子化を観測することに成功し、接点の制御に使用できることが確認された。さらに、ジャンクションにヘリウム原子を吸着させたときの電気伝導度の変化を観測できたので、今後、様々な物質を挟み込んだジョセフソン素子の振舞いを解明したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、超伝導接合をブレークジャンクションを用いて制御することで、電極間に強磁性体や半導体、吸着分子などを架橋した新奇ジョセフソン・ジャンクションの低温量子現象を探索することを目的としている。これまでに、低温実験のための冷凍機の整備が終わり、ブレークジャンクションの装置の製作が完了した。4.2 Kまでの低温実験では、金や銅の細線を破断したポイントコンタクトの電気伝導度の測定において、量子コンダクタンスの整数倍のところにステップを持ち電気伝導度の量子化を観測することに成功し、ジョセフソン・ジャンクションの実験に使用できるめどが立った。 初年度に予定していた強磁性ナノコロイドや半導体ナノコロイドを導入する装置の開発については、導入ラインの設置方法に変更の必要が生じたため少し遅れている。替わりに次年度以降に予定していた吸着気体分子の実験に取り掛かっており、ヘリウムを入れた場合の電気伝導度の変化が観測され始めた。また、さらに低温を目指した冷凍機の開発を進めており、超伝導転移温度の低い様々な金属の測定ができるようになりつつある。以上のように、新奇超伝導素子の基礎研究へ向けて、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、低温におけるブレークジャンクションの動作を確認できたので、ナノ粒子導入装置を完成させ、接合制御可能なジョセフソン・ジャンクションに磁性体ナノコロイドや半導体ナノコロイドを挟みこんだ実験に取り掛かる。コロイドの架橋には、室温からジャンクションまで導入するキャピラリーを用いる。コロイド溶媒の融点以上の温度にするため、途中のキャピラリーにヒーターを取り付け、梗塞が生じないように工夫する。ジャンクションの距離は、トンネル電流とジャンクション間の距離の関係をピエゾ電圧の関数として調べ、使用する金属の仕事関数の値を使って校正する。この測定は温度を制御し常伝導状態で行う。導入するナノ粒子のサイズにしたがって、ピエゾ電圧をコントロールし、超伝導接合部の距離を調節する。架橋する粒子の物性やサイズ、またはジャンクションの距離が、超伝導体におけるクーパー対のトンネルにどのように影響するか詳細に調べる。 ジョセフソン接合間にヘリウム原子を導入した実験では、ヘリウム3とヘリウム4の違いから、スピンが及ぼす効果を調べる。ヘリウム3の核スピンが電子スピンとのhyperfine相互作用を通してクーパー対にどのような影響を与えるかを検証する。また、原子の数や極板間の距離を制御し、常伝導接合で観測されているヘリウム原子による仕事関数の変化や、ヘリウム原子を介した二準位トンネルについて、超伝導状態でどのような振舞いとして観測されるか検証する。ヘリウム原子の導入装置を利用し、酸素分子の磁性による強磁性ジョセフソン素子の実験を行い、ヘリウム3で得られた結果と比較検証する。これらの実験から得られた、新奇ジョセフソン素子の基礎物性についての新たな現象を取りまとめ、成果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度に申請した旅費の残額を有効利用し物品費として使用したが、少額の未使用分が残った。次年度の研究費と合わせ物品の購入に使用する予定である。これまでよりも低温での測定を目指して冷凍機を製作しているので、そのための金属材料や真空部品の購入に物品費を使用する。また、試料となる高純度金属細線や、ナノコロイドの購入を行う。ほかには、電子回路部品や寒剤の購入に物品費を使用する。 旅費は、研究分担者との打合せのための金沢と長野の間の移動、および学会における研究発表に使用する。
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