2013 Fiscal Year Research-status Report
脂質二重膜の安定性の破れのリアルタイム観察および理論解析
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24651134
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
瀧口 金吾 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20262842)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅田 民樹 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 准教授 (90243336)
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Keywords | 脂質二重膜 / 巨大リポソーム / 光学顕微鏡 / リアルタイムイメージング / 非線形モデリング / エンドサイトーシス / 抗菌物質 / 生体膜動態 |
Research Abstract |
近年、生体膜の基本構造である脂質二重膜が、非常にダイナミックな自己組織化複合体であることが明らかにされ、蛋白質やペプチドのような生体因子を含め、様々な化合物との相互作用の結果多様な挙動や反応を示すことが分かって来た。従って、その相互作用機構と膜の挙動に関して知識を蓄積しておくことは、生体膜を理解する上で非常に重要である。 ミツバチの溶血毒の主成分であるメリチンは、26残基からなる両親媒性ペプチドで、その単純な構造ながら様々な反応を脂質二重膜に生じさせる。この理由から、メリチンと膜との相互作用については古くから非常に多種多様な研究が行われて来た。しかしこれまでは、個々の脂質二重膜にメリチンが引き起こしている変化をリアルタイムで観察し議論している研究はなかった。一方、本研究グループは、蛋白質、ペプチドなどが、巨大人工膜小胞(巨大リポソーム)に与える影響を、暗視野顕微鏡を使って直接長時間連続観察することによって研究している。この実験系の利点は、リアルタイムで膜に生じている現象をイメージングし理解できることにある。本研究ではその利点を活かし、メリチンが膜に引き起こす様々な現象をイメージングの結果を基に分類し、その分類に沿って結果を円偏光二色性測定、共沈実験、電子顕微鏡観察などから得られた情報と比較することによって、メリチンがどのような二次構造を取り、どのような結合を膜としている時に、膜がどのような変化を示すかを対応付けることに成功した。得られた事実は、同じペプチドが脂質二重膜に作用する場合でも、膜を構成している脂質の組成の違いや周囲の環境や条件の違いに依存して、膜に引き起こされる形態や動態の変化が異なってくることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
様々な脂質組成を持つリポソームとメリチンとの相互作用を異なる溶液条件下で観察する実験過程で、酸性リン脂質を含むリポソームが低張塩溶液中でエンドサイトーシス様の膜チューブ陥入を起こす反応過程を直接観察することに成功した。その変形モデルを構築するため、膜に働く張力と弾性エネルギーに着目し、膜の形態の計算シミュレーションを行った。 その途上で、新たに非線形モデルによってより複雑な計算シミュレーションを行わなくてはならないことが判明したものの、この再計算によって、実際に観察された膜チューブ陥入現象の結果生じる膜形態が良く再現できることが確かめられつつある。なおシミュレーションの結果から期待通り、一定以上の割合で膜中に酸性リン脂質が含まれていると、浸透圧ストレスによる容積の減少に伴ってリポソームが収縮しようとする際、膜表面のリン脂質に由来する電荷と溶液中の塩イオンとの相互作用とから陥入部分がチューブ状になることが裏付けされた。チューブの形成の有無、生じる膜チューブの安定性、直径は、酸性リン脂質の脂質組成に締める割合や塩濃度、膜を構成しているリン脂質の分子形状に依存することも、当初の想定を上回る成果として明らかになった。今後は実験結果と計算結果の細部にわたる比較検討を行った上で成果をまとめ公表する予定である。 併せて、界面活性剤や界面活性作用を持つペプチド類が膜穿孔を起こした場合の膜小胞の形態形成機構や、封入された細胞骨格の重合伸長反応に伴う膜小胞の形状変化過程についても、滞り無くモデル化と計算シミュレーションが進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
酸性リン脂質を含むリポソームが低張塩溶液中でエンドサイトーシス様の膜チューブ陥入を起こす反応、界面活性剤や界面活性作用を持つペプチド類が膜穿孔を起こした場合の膜小胞の形態形成、封入された細胞骨格の重合伸長によって引き起こされる膜小胞の形態変化、各々の機構について、実験観察結果の再現性を高めることを通じて、新たに導入した非線形モデルのさらなる向上を目指す。 そのために必要な実験並びに計算を、これまでと同様な方法手法を用いて引き続き行い、実験結果と計算結果の細部にわたる比較と追加の検証を推進する。その実験結果と計算結果の比較と検証のために必須な研究代表者瀧口と分担者梅田との連携を確実にするために研究打合せを密に行う。得られた研究成果は、順次各種学会・研究会への参加発表や論文等の形でまとめることで公表していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の研究計画では、平成26年1月までに、塩存在下で浸透圧ストレスを与えられた酸性リン脂質含有人工脂質膜小胞の変形現象に対して計算シミュレーションを終え、平成26年3月までに、観察結果のモデル化とその検証に関する研究成果を取りまとめる予定であった。 ところが平成25年12月、変形現象が、線形の理論モデルでは再現が難しく、非線形モデルによって検証可能であることが新たに判明し、追加検証が必要になった。 追加検証のための実験並びに計算に掛る費用(脂質薬品類、ディスク等記録媒体等、消耗品の購入費)、および研究打合せのための旅費(名古屋神戸間1泊2日3回)、研究成果をまとめ論文を発表するために掛る費用(印刷代および論文投稿料の支払い)に用いる。
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Research Products
(6 results)