2012 Fiscal Year Research-status Report
通信タイミングを災害時も確実に同期させる自律分散的な基礎原理
Project/Area Number |
24651184
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田中 琢真 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (40526224)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | クロック同期 / 位相振動子 / 反応拡散系 |
Research Abstract |
内部にクロックを持つ素子が空間内に配置されており,近傍の素子とのみ相互に連絡ができるときにクロックをうまくそろえることが本研究の目的である.クロックは必ずしも速やかにそろわず,また素子同士はお互いの位置関係が動的に変化するかもしれず,素子は互いに周辺にどのような素子があるのかを知ることができないと仮定する.これは災害時など,状況に適応してロボットなどを動かす場合に発生する状況である.また,どれか中央司令塔となる素子を用意せずにクロックを合わせる状況を考えているが,これは中央司令塔を持つシステムの場合災害時に司令塔が破壊されてしまうと全体が機能不全を起こすという弱みがあるためである.このような理由で,局所的な自律によってクロックを合わせる方法を考案することには意味がある.この時に起こりうる問題としては,クロックの同期がうまくとれないというものがありうる.実際,周辺と相互作用する振動子系はパラメタによっては安定的な渦を発生させてしまう場合があることが知られている.渦が発生すると局所的な相互作用では渦の解消ができず,全体の同期をとれなくなってしまう.この問題を解決するため,クロックあわせの問題を振動媒質の一様同期化の問題であると捉え,定式化した.この定式化によって,クロックを持つ素子が周期的なクロック以外に別の量を持てば,同期化が可能になる場合があることがわかった.この場合,最初に渦が発生した状況から出発しても,素子は周辺の素子とやりとりする中で渦をつぶし,解消することができる.この基本となる方程式を導き,性質を解析したところ,特殊な場合については渦や波がどのような性質を持つかを明らかにすることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
素子がクロック以外に周辺の素子と特別な量(ここでは密度と呼ぶことにする)をやりとりすることができれば,安定的な渦を解消することができることがわかったが,研究の過程でいくつかの問題点が発見された.第一に,この系では素子が連続的に分布することを仮定しており,現実のクロックを持ったロボットなどとはかけ離れている.というのは,今年度構築したモデルは振動場の標準的な偏微分方程式である複素Ginzburg-Landau方程式を拡張した形になっているからである.第二に,クロックの性質をうまく設計すればそもそも渦は発生しない.これは複素Ginzburg-Landau方程式でパラメタを適当に選ぶと一様振動が標準的な状態になるからである.第三に,密度と振動子が存在する場であるとして微分方程式を考えると,物理的にやや不自然な形になっている.ラプラシアンによる結合が方程式に入っているが,通常の意味での物理的な密度とは違った形で密度がラプラシアンに影響するような方程式になっている.第四に,密度という量を持った素子が周辺の素子とやりとりをしていると考えると,相互作用の実装方法に困難がある.工学的な意味でも,物理的に不自然な形のラプラシアンを実装するのは難しい.以上のような理由で,今年度構成したモデルには実装上の問題があり,また理論的に不自然な点もあることが徐々に明らかとなった.したがって,基本的な方程式の導出とその性質の解析には成功したものの,本年度の達成度は不十分であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
以上の問題点があるので,問題点を解決したモデルを構築することを考える. 第一に,実際のロボットなどで使われているクロックとその同期の中で生ずる問題を調べ,より具体的な状況で生じてくる問題を容易に解消できるようなモデルを構築することを試みる.これはロボットのクロックに近い性質を持った素子を採用した方程式を使うことのみならず,偏微分方程式の代わりに空間に散在した素子を使ったシミュレーションを行うことも含む.これによって,より現実的な状況での応用を考えることができるようになる.また,結合の仕方を現実的なセンサネットワークの結合に類似したものに変えることも試みる. 第二に,現在のモデルの解析を進める.現在のモデルで一部の特殊解を見つけることができており,安定性解析も一部ができているが,安定化・一様化につながるダイナミクスについては不明な点が多い.この点を明らかにすることができれば,このモデルそのものに対する理解が進む以上に,一般的な系における一様化の方法を構築するためのヒントになるはずである. 第三に,現在のモデルの結合を変化させて,物理的に自然な形のモデルに変化させたときにどのようなダイナミクスが出現するかを調べる.現在のモデルは複素Ginzburg-Landau方程式の自然な拡張になっていないので,これを密度を持った複素Ginzburg-Landau方程式として自然な拡張を行ったときにどのようなダイナミクスが出現するかを調べる.これによって,一般的な状況で局所的に相互作用する振動的素子が運動しているときにどのようなダイナミクスが出現しうるかを議論できる. 第四に,幅広く様々な分野の学会に出席し,情報収集に努める.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度の未使用額は1,184,380円である.理論構築に時間がかかったため,残額が発生している.この未使用額は次年度の計画に組み込んで,効率的に使用する.前年度に続いて,主としてモデル構築とその解析を行うため,情報収集のための旅費と数値計算実行のための計算機調達費が主となる. パラメタ空間の中を広く探索し,計算量の多い偏微分方程式を精度よく計算する必要があるため,大規模な計算を実行できる計算サーバを整備する必要がある.現在保有しているサーバを順次拡充してゆくため,新たな計算ノードを導入する.昨年同様の,マルチコアCPUを搭載した計算ノードを調達予定である.さらに計算ノード間でファイルの共有をするため,ノード間をつなぐ高速LANを構成するルータも用意する.計算ノードの保護のための無停電電源装置も調達することを予定している. 専門的な問題のみに関わらない広範な学会に出席して情報収集するため,旅費を使用する.特に本研究のように一つの学問分野(非線形物理学)を別の分野(ロボット工学)と統合して応用する(災害対策インフラ)学際的な研究においては,常識にとらわれず広く様々な学会で情報収集を行うことが必須である.
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