2013 Fiscal Year Research-status Report
低酸素応答性発光プローブ イリジウム錯体によるミトコンドリア呼吸鎖機能の解析
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24651256
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
竹内 利行 群馬大学, 特任教授 (00109977)
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Keywords | バイオテクノロジー / 生体機能利用 |
Research Abstract |
生体で消費される主要エネルギーは、ミトコンドリア呼吸鎖の電子伝達系で電子が4つの複合体をリレーする過程で内外膜間隙にプロトンが貯えられ、そのプロトンのドライブによってATPとして産生される。この電子リレーでO2が消費されるが、0.1-2%は電子対にならず、反応性に富む活性酸素(ROS)となる。従って、激しい運動などで多量の酸素を消費すると多量のROSを生ずる。ところで、ROSはその基となる酸素が十分にある状態よりも低酸素状態時の方が多量に発生する。そこで、「ミトコンドリアでROSは酸素消費に応じて発生するはずだが、低酸素状態でROS発生が増加するのはなぜか」と云う問いを立てた。 我々はこれまで赤色発光イリジウム錯体Ir(btp)2(acac) [BTP](分子量 712)を基本型として用いてきた。BTPは光学特性に関わる2つの主配位子と、光学特性には関わらず、水や脂質の親和性を変える補助配位子acetylacetone(acac)からなる。BTPは脂溶性で細胞内では小胞体 (ER) に局在する。24年度は、BTPをミトコンドリアに局在させるために、acacにミトコンドリア指向性triphenyl phostin (TPP) をつけ、ミトコンドリア局在性をもつ誘導体BTP-TPPを合成した。25年度は本BTP-TPPを用い、ミトコンドリアの多い細胞と少ない細胞で比較するとミトコンドリア数と比例して発光した。次に、ラット心筋培養細胞を用い、心筋拍動をβアゴニスト10 μM isoproterenol、100 μM carbachol で増加させ、更にβブロッカー propanolを加えてβアゴニストの作用を抑えた。発光はβアゴニスト添加と共に増加し、βブロッカーで抑制された。つまり、心筋細胞の拍動増加とともに低酸素状態が加速し、βブロッカーでそれは緩和した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度に、通常のBTPを用いて細胞内が低酸素状態になるためにはミトコンドリアが十分に機能することが重要で、分化機能を維持した前立腺癌細胞と低分化状態の前立腺癌細胞を用い、ミトコンドリアの電子伝達系ブロッカー(ロテノン)や、ミトコンドリアDNA欠損細胞では十分な低酸素状態とならないことを示した(研究発表:PLoS ONE)。さらに、ミトコンドリア指向性 BTP-TPPで、その発光はβアゴニスト添加と共に増加し、βブロッカーで抑制されることを示した。これによって更に詳細なミトコンドリア機能と低酸素状態発生メカニズムを研究する基盤が確立された。
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Strategy for Future Research Activity |
グルコース応答性を保つマウス膵β細胞株MIN6と、波打つ収縮・弛緩を観察できるラット心筋初代培養細胞を用いる。共にミトコンドリアに富む細胞で、本研究に適していると判断した。MIN6は我々の研究室で常時用いている細胞で、低グルコース、低酸素、サイトカイン刺激で大量のROS発生を観察できる (Endocrinology 151: 4705, 2010)。ROS検出はそれを安定的に検出できる蛍光プローブ(PF-TMROS)を用いる。ROS検出で頻用されている5-(and-6-)-chloromethyl-2’,7’-dichlorodihydro fluorescein diacetate (CM-H2DCFDA)は不安定で、測定値が変動しやすいので用いない。SenSysTM charge付きLSM5 PASCALコンフォーカル顕微鏡(Carl Zeiss)で定量して数値化する。ミトコンドリアの同定にはMitoTrackerを用いる。 心筋初代培養は、以前心筋肥大の実験で用いたことがあり(JBC 272: 20545, 1997)、心筋細胞の機能不全状態である心筋肥大技術ももっている。
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