2013 Fiscal Year Research-status Report
東アフリカ牧畜社会における劣悪な国家ガヴァナンスへの民族誌的接近法の開拓
Project/Area Number |
24651275
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
湖中 真哉 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (30275101)
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Keywords | 国際研究者交流 / 東アフリカ / 牧畜社会 / ガヴァナンス / フロー / 紛争 / 国内避難民 / インフォーマル経済 |
Research Abstract |
平成25年度は東アフリカ牧畜社会を対象とし、人類学的な参与観察法に基づく臨地調査研究を実施した(実施国、調査対象集団の名称については調査対象者保護のため非公開)。 平成24年度の臨地調査成果を踏まえて、フロー起点の民族誌記述方法を試行した。臨地調査の結果、2012年から2013年にかけて、調査地に隣接する別地域で新たな紛争が発生し、新たに国内避難民のフローが発生していることが明らかになった。分析の結果、この紛争についても、劣悪なガヴァナンスが主因であり、別の集団に攻撃対象を変更して紛争を継続する戦略が採られたことが判明した。つまり、上述の過程は、政治家が紛争を継続することにより政治的人気を得る権力のフローとして分析できる見通しが得られた。 また、略奪された盗品家畜のインフォーマル経済のフローについても広域に追跡調査を行った。盗品の取引にかかわる調査だけに、情報が秘匿され、調査は困難を極めたが、断片的な情報は得ることができた。家畜の耳切や焼印から所有者を特定して、盗難を告発しても、政治的圧力によって、犯罪者が釈放され、パトロン=クライアント関係がこうした盗品のフローを支えていることが明らかになった。 携帯電話による情報交換のフローについても、多くの平和構築事業が表層的な成果しか挙げていないのに対して、着実な成果を挙げつつあることが判明し、具体的な分析が進んだ。また、ケニアのナイロビで研究協力者のケネディ・ムクトゥ教授と研究情報交換を実施した。 研究成果の公開については、日本文化人類学会第47回研究大会、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所第12回フィールドサイエンス・コロキアム、英国マンチェスター大学で開催されたIUAES(国際人類学民族科学連合)第17回世界大会、および、大阪大学で開催された国際シンポジウム「フードセキュリティの人類学」で報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題が劣悪なガヴァナンスを対象にしているだけに、調査情報の秘匿、調査対象者の保護など多くの調査方法上の困難はあったが、それを考慮すれば、研究の目的達成度は、おおむね順調に進展していると判断できる。研究成果の公表についても、平成25年度は、本研究の研究成果を、国内学会1件、国内研究会1件、国際会議1件、国際シンポジウム1件で報告したが、いずれも、内外の研究者から高評価が寄せられた。また、最終年度に向けて、フロー起点の民族誌的記述法について検討した結果、国家システムとフローを組み合わせた新たな理論的モデルを構築するための準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、研究成果の公表を計画している。当初、国際的な研究成果の公開として研究協力者のケネディ・ムクトゥ教授の協力でナイロビでワークショップを開催する予定だったが、ムクトゥ教授の多忙により開催困難となった。これに代えて、国際的な研究成果発表の機会として、英国マンチェスター大学で開催されたIUAES(国際人類学民族科学連合)第17回世界大会、および、大阪大学で開催された国際シンポジウム「フードセキュリティの人類学」で報告を行った。さらに、平成26年度には、IUAES(国際人類学民族科学連合)中間大会での報告も予定している。また、国内での研究成果の公表機会として、平成26年度に、本科研の共催で、文化人類学会中部地区研究懇談会「劣悪なガヴァナンスの人類学へ向けて」を開催することを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題は、劣悪なガヴァナンスを研究課題としているだけに、調査情報の秘匿、調査対象者の保護など多くの調査方法上の困難に直面した。また、正確な情報を把握するために、複数地点でクロスチェックを行う必要があったが、各所を巡回する臨地調査は移動も含めて、多大な時間を要した。また、研究期間中に、調査対象地で虐殺事件等が発生したため、安全性の確保のために、調査計画を変更しなければならないこともあった。 そのため、予め立てた研究計画がその通りには進めにくく、最終的な課題であった民族誌的アプローチのモデルを構築するまでには予想以上の時間を要することとなった。 平成26年度は、当初、平成25年度課題のうち残り一つの課題としていた(2)「ガヴァナンスの重層性分析」を実施する。まず、ガヴァナンスをグ ローバル/ナショナル/ローカルの3つの水準に整理して、その様態を民族誌的に特徴付ける作業を行う。つぎに、3つの水準の重層性を分析する。 生じた次年度の使用額は、おもにこれまでの臨地調査の補充調査のための調査関連費用(旅費、調査対象者謝金、レンタカー代金)に充てる予定である。これにより、最終的な課題である民族誌的アプローチを、調査対象地においてさらに再検討し、必要に応じて修正しながら、より洗練されたモデルとして完成度を高めることを計画している。
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