2012 Fiscal Year Research-status Report
キリスト教布教に対抗する「権力正統化装置としての神楽」研究
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24651276
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
吉居 秀樹 長崎県立大学, 経済学部, 教授 (30240229)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 千香子 長崎県立大学, 経済学部, 教授 (30311252)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 神楽 / キリスト教 / 権力の正統性 / 大航海時代 / 情報ネットワーク |
Research Abstract |
本年度は課題の歴史的経緯や諸問題についての整理化を図るとともに、基礎的な資料を収集することを目標とした。本研究は16世紀における、長崎県県北地域でのキリスト教の受容過程及びその意義を、日本側の対応として構築された「平戸神楽」に焦点をあて、考察することが目的であるが、その際、キリスト教の受容がそれ単独ではなく、近代科学ないし科学技術およびその思想に繋がる成果と共にもたらされたものであるということが指摘されてきている。このことは、キリスト教のわが国へ受容された時代が、最近の研究では、近代世界史ステムないし近代主権国家の成立、そして主権国家を基本単位とする国際法システムの形成にもつながる「大航海時代」と呼ばれてきていることを考え併せると、本研究内容がより広い文脈において、そして国際的な文脈において、取り組むべきものであることを示している。従って、第一に本研究対象地域における「神楽」の形成とその意義を研究するとともに、同時にキリスト教をもたらしたヨーロッパ側の状況についても、明らかにするものとした。このような視点から、平成24年度までの研究では、主として精神史ないし科学史の視点からみてのキリスト教と近代科学との関係、キリスト教をもたらした「大航海時代」の意味およびそれを成立させた背景を明確化することを目標とした。 日本の状況については、①日本におけるキリスト教の広がりとともに、その浸透過程・受容過程で起こる他宗教との軋轢、キリシタン側からの仏教・神道の迫害について、②禁教後の神道への揺り戻しについて平戸島や天草を事例として考察した。さらには、平戸生まれの神道家であり全国の「一の宮」巡拝を23年の歳月をかけて成し遂げた橘三喜の平戸神楽再構築の背景について考察した。 成果は『長崎県立大学論集』45-4 へ執筆.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究は平戸を中心とする現在の長崎県北地域におけるキリスト教の受容過程の前提作業の意味をもって、布教する側であるヨーロッパの当時の状況を、主として、その精神史の視点ないしは科学史的な視点から考察した。そのなかで、明確になったことは、当時のヨーロッパ自体も、ルネサンス人文主義の影響そして宗教改革という変動期をへた時代にあたり、情報革命と呼びうる印刷革命を媒介として、新たな「世界観」をもとに、近代科学的思考が芽生えつつ、近代主権国家の成立を要素とし、それらが相互に関連性を持ちながらヨーロッパ近代が形成されつつある時期であったことの確認である。これらの諸要素が、地球規模での経済ネットワークの形成過程の中で、同時に、我が国に伝わってきていたと言うことができ、近代科学的思考を備えたキリスト教の教えは、当時、イエズス会を中心としたキリスト教布教が急激に拡大していった大きな要素となっていると考察できた。 一方で受け入れる側の日本の状況について次のことが確認できたことである。①日本におけるキリスト教の広がりとともに、その浸透過程・受容過程で起こる他宗教との軋轢、キリシタン側からの仏教・神道の迫害についてが、②禁教後の神道への揺り戻しについて平戸島や天草を事例として考察した。さらには、平戸生まれの神道家であり全国の「一の宮」巡拝を23年の歳月をかけて成し遂げた橘三喜の平戸神楽再構築の背景についての考察が進んだことである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度までの成果を踏まえ、得られたすべての知見を生かす視点を磨く。学際的な立場から調査内容を検討する議論により、得られた知見をさらなる研究調査に生かすことを実践する。2年目は下記の二つの項目を目標としている。 1.平戸神楽と神社との関係(神楽をもたない神社と氏子・潜伏キリシタンとの相関関係)<山田・吉居> 2.多様な信仰の共存の形態について 最終的な見地として「権力支配としての神楽」とともに、明らかにしたいのは、長崎県北において異なる信仰形態の受容と共存の形態についてである。例えば、平戸市の安満岳は山岳信仰の霊山のひとつで寺社勢力が強いものであるが、神社や鳥居と共に、山頂には潜伏キリシタンの祠がある。キリシタンの祈りの言葉であるオラショにも安満岳の名称が出てくることからも、キリシタンにとっても重要な聖地であることがわかる。 そればかりでなく薩摩塔も同じ場所に祀られている。同様な事としては、同じ長崎県北部の離島、小値賀の沖の神島神社の場合も共通性が見られ、2年前に発見された氏子帳である『沖の神島神社氏子帳』(1774~1861 年の記録帳)を辿ると、氏子の分布が五島列島全域に及び、さらには氏子と仏教集落、潜伏キリシタン集落の重なり(三重構造)が見えてきた。また、五島列島の神社の中には神社はあっても神楽を舞わない神社があり、現在においてその神社はカクレキリシタンの神社と認識されている。それらの状況について、領域支配者は知っていたと考えられ、それは、西海の領土における秩序形成(共存)の一つの方法であったといえるのではないかとの仮説の下に検討、調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は平成24年度に継続して研究に必要となる下記の項目を設定している。 ①文献購入費 文献収集にあたること。とくにイエズス会の関連の文献収集に当たる。宣教師であるルイス・フロイスや、ヴァリアーノ、通訳として活躍したロドリゲスの書簡などである。 ②旅費:現場となる長崎五島列島一円の神社・教会等を訪れフィールド調査を実施する。神道家の橘三喜が、諸国の一宮を参拝して各地の神楽を見聞した後、平戸神楽24 番を完成させた状況と、平戸神楽24 番の内容について考察するために、「一の宮」関連の神宮・神社の状況をできるだけ多く確認していく。 ③報告書作成および資料・データの整理 データ整理に必要な人員の費用。
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Research Products
(1 results)