2012 Fiscal Year Research-status Report
理学療法学と精神医学の臨床知見に基づく発達神経現象学の理論構築
Project/Area Number |
24652007
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
稲垣 諭 東洋大学, 国際哲学研究センター, 客員研究員 (80449256)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 体験 / 組織化 / 身体動作 / 中枢神経系 |
Research Abstract |
本研究は中枢神経系障害のリハビリテーションに関わる理学療法の臨床知見と、精神疾患の治療に関わる精神医学の臨床知見、及び脳神経科学に基づく神経系の組織化の仕組みを統合することで、人間の「発達」現象を捉え直すことを目的とする。 本年度は、精神医学領域と理学療法領域との接合点となる現象学的意味での「体験(Erlebnis)」概念の先鋭化および、基盤となる体験カテゴリーの発見を行った。特に体験の「起こること(起動、創発)」モードと、「できること(調整)」モードの特定とそれらの峻別は神経系の仕組みそれ自体からは取り出すことのできない体験の特質である。意識経験を含めた体験野の組織化は、上述の体験カテゴリーが組み合わされることで行われていると予想される。その際に問題になるのは、神経系で働いている抑制の仕組みと、体験プロセスとの関連である。例えば中枢神経系の多くは、抹消神経系からの電位刺激に対して直接的反応を行うことがない。つまり、神経系は直接的対応を喪失させる仕方で何重にも抑制のロックをかけることで、固有な組織化を行っている。それが外的かつマクロにみると、抹消神経系の刺激と意識体験的現実との間に対応があるように経験が組織化されている。ここから仮説的に明らかになるのは、神経系の再組織化というリハビリ的治療課題は、欠損しているマクロ動作を補うように行っても、神経系の仕組みから見るとほとんど筋違いになってしまうということである。むしろ神経系の複雑さは、ある水準を超えると脳波の多様な創発を起こす。それら脳波はカオス力学的には固有なアトラクタやリミットサイクルとしての作動を行うため、神経系の再組織化は、こうした脳波レベルでの固有さの出現として評価できるのではないかという可能性も出てきた。次年度は、こうした展開を見越したうえで、発達という視点についての知見をさらに深めることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
25年度4月より勤務先の変更があり、それらの手続きや引き継ぎ業務のため、25年1月から3月までの業務効率が落ちたことは否めない。また、他の研究センターの業務、特に「哲学的環境デザイン」課題の論文執筆に取り組むことで、本課題における「神経系と発達」にかかわる神経現象学的な基礎理論の構築において、発達する当のシステムの環境条件に関する分析も必要であることが明らかに分かった。そのため、当初計画に、より複合的な課題を絡ませる必要に迫られているのが実情である。次年度は、問題の複合化による遅れを取り戻すよう努力する次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に続き、臨床データの収集作業を継続し、かつこれまでの成果である体験カテゴリーを基礎にして、「発達神経現象学」に関する研究を進める。ただし、申請者の職場環境の変化に応じて生じた遅れを取り戻し、かつ探究課題に含まれる新たな関連課題を巻き込む形で、探究を深めていく必要がある。とはいえ新たな本務校が大学病院であるため、精神疾患および運動機能障害の患者にかかわるデータ収集の手順が簡略化されるか、効率化する可能性も多分にある。そのため医学関連の他の先生方とのネットワーク形成も次年度の重要な課題として位置づけられる。それら研究のための環境作りと同時に、身体動作システムおよび心的システムのカップリングのあり方を、体験カテゴリーをさらに詳細にすることで解明する。幼児においては、成人とは異なり、動作システムと心的システムの間には多様な連動モードがあり、それらモードの系列的、分岐的、創発的展開の解明が「発達」概念の新たな定義づけに必要であると予想している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
先に指摘したように、職場異動等による外的業務量の増加のために研究費に残額が出たが、それは臨床データを補足する図書資料費として次年度に使用する予定である。また次年度研究費の内訳としては、精神医学、リハビリテーション医療、脳科学、自然基礎科学系、哲学、社会学といった研究課題にまつわる図書資料費(600,000)、および臨床視察、学会参加等々の旅費(300,000)、研究遂行および環境を充実するための備品費や業務委託費(200,000)として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)