2013 Fiscal Year Research-status Report
理学療法学と精神医学の臨床知見に基づく発達神経現象学の理論構築
Project/Area Number |
24652007
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
稲垣 諭 自治医科大学, 医学部, 教授 (80449256)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 聡幸 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70296101)
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Keywords | ナラティブ / 安定化 / 代償 / 臨床-内-存在 / 現象学 / 根拠に基づく医療 / 神経リハビリテーション / 精神医学 |
Research Abstract |
本研究は中枢神経系障害のリハビリテーションに関わる理学療法の臨床知見と、精神疾患の治療に関わる精神医学の臨床知見、及び脳神経科学に基づく神経系の組織化の仕組みを統合することで、人間の「発達」現象を捉え直すことを目的とする。 本年度は、精神医学領域と理学療法領域との接合点となる経験の場として、「臨床」という医学的実践についての哲学研究を精力的に行った。発達現象と臨床とは、直接関連するものではない。とはいえリハビリテーションや精神医学の臨床で行われているのは、患者と医療従事者との関係性の中で経験が進展すること、そしてそれに応じて患者の経験が再編され、病理が変化することである。そしてこの経験の進展や病理の変化は、患者当人の心や身体の組織化の水準が切り上げられ、別のモードを獲得することでもある。ときにそれは、悪化や停滞の途をたどる場合もある。その意味では、臨床における経験の展開は、発達現象の理解にも十分応用できると考えられる。また特に最近では、根拠に基づく医療(EBM)とナラティブ・メディスン(NBM)とが両軸となって、医療臨床が組み立てられる方向が推奨されているが、そうした現状においてリハビリテーション医療と精神医学の臨床では何が行われているのかを確認する必要に迫られたとも言える。臨床経験では、「臨床内存在」という患者一人でも医療従事者だけでも成立しない固有な存在のかたちがある。それは、現象学的な視点および記述の中で初めて明らかになるものである。そしてその中で患者は自分の経験が安定化する場所を疑似的であれ獲得するのである。この安定化は、発達の段階論の各ステージに対応するものとみなすことも可能であると予想される。次年度は、こうした展開を見越したうえで、発達という視点についての現象学的知見をさらに深めることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
25年度4月より勤務先の変更があり、それらの手続きや大学内業務に一通り順応するまでに時間がかかり、業務効率が落ちたことは否めない。その他方で、勤務大学病院内で、精神科の先生方、およびリハビリテーションセンターのセラピストとの新たな連携を作り出すことも精力的に行うことができた。実際に、研究室の近くに臨床の場があることは研究にとって有利に働く。そしてその延長上で、自治医科大学精神科の准教授である小林聡幸先生に共同研究者となっていただくことで、精神科臨床にかかわる助言と、それに基づく議論を活発に行うこともできた。その共同討議のおかげで「臨床」と「(神経)発達」という二つのテーマを経験プロセスとして分析できたことは、大きな成果だと思われる。確かに研究の進展から見れば計画時に比べて遅れてはいるが、今後の見通しから言っても悪くない状況にあることは確かである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に続き、臨床データの収集作業を継続し、かつ前年度の成果である「臨床-内-存在の現象学」という視点から、研究を進める。 前年度での推進方策に挙げられていた、「身体動作システムおよび心的システムのカップリングのあり方を、体験カテゴリーをさらに詳細にすることで解明する」という課題は、心的システムおよび社会システムの連動の場面から着手することで、順調に継続されている。この問題は、精神科の臨床において重要性をもつため、ナラティブやプラセボ(効果)とのかかわりの現象学的分析として行われる必要があった。今後は、共同研究者、ならびにリハビリテーションおよび精神医学の臨床にかかわる研究者との連携を深めたうえで、それぞれの臨床の橋渡しができる経験の場所を、発達神経現象学の展開としてより詳細に明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度より、勤務先が変更となり、臨床的な場面の視察が勤務地においても可能になったため、都内にある精神病院およびリハビリ関連施設の視察を減らすことができたことが、残額が生じた理由の一つである。その他には、備品等にまつわる消耗品関連の支出が、大学における個人研究費で賄うことができたこと、および共同研究者による支出予定が配分額に達しなかったことも残額の出た理由となっている。この点は、研究代表者による分配額の計画的決定の見積もりの甘さであり、今後注意して対応したい。 次年度への繰越金は、図書資料および消耗品費として支出する予定である。また次年度研究費の内訳として、精神医学、リハビリテーション医療、脳科学、自然基礎科学系、哲学、社会学といった研究課題にまつわる図書資料費(400,000)、および臨床視察、学会参加等々の旅費(300,000)、研究遂行および環境を充実するための備品費や業務委託費(100,000)として使用する予定である。
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Research Products
(5 results)