2012 Fiscal Year Research-status Report
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24652012
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
中村 一基 岩手大学, 教育学部, 教授 (20133895)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 義経北行伝説 / 異本『義経記』 / 境界権力 / 華夷秩序 |
Research Abstract |
平成24年度は、異本『義経記』を収集、奥州本『義経記』、「奥浄瑠璃」判官物を入手、その解読を行った。さらに、《義経北行伝説》関連資料の収集を行い、『義経記』に起こった変容の比較研究を行った。具体的には、御伽草子「御曹子島渡り」、奥州本『義経記』「奥浄瑠璃」判官物の義経像、「聖徳太子入夷譚」(『聖徳太子伝図絵』)との比較研究によって《貴種入夷譚》の類型を明らかにした。また、異本『義経記』(『義経知緒記』)と、江戸時代初期の平泉周辺に起こった生存伝説を語る清悦という人物の聞き書き(「清悦物語」「鬼三太残齢記」)との比較を行い、義経の蝦夷が島渡海、蝦夷王義経の誕生、義経の神格化という伝説の思想史的背景について考察した。その考察に関連して、津軽・北海道の《義経北行伝説》関連の地を踏査した。その上で、《義経北行伝説》と<異域>、奥州藤原氏・安藤(東)氏と<境界権力>、『義経記』と平泉伝説、異本『義経記』との成長、《征夷》という宿命、蝦夷神話と<中世神話>といった視点から考察した。そのことで、義経が、《征夷》という宿命を背負う源氏一族であり、同時に、反逆的で、異端的な英雄の側面を持つ二面性を持った英雄であることがわかった。さらに、日本的華夷秩序が容認されにくい東北の<境界権力>の地における華夷秩序の伝説であること、さらに、異境・異界たる蝦夷の神話世界と結びつくことで、独自の英雄像として伝説が成長していったことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度に計画して、研究実績」として、やや遅れている点は、『吾妻鏡』・『義経記』の出版経緯を調べ、江戸時代の義経認識の基盤を確認、さらに、《義経北行伝説》関連資料(「清悦物語」「鬼三太残齢記」等の実見証言・「シャクシャインの反乱」に関する蝦夷反乱記録・松前巡検使の現地報告・漂流記・『快風丸渉海紀事』(「水戸藩の快風丸の蝦夷地探検記録」)を収集して考察をおこなってたが、近世の蝦夷観と《蝦夷島の義経》像との相関関係を解明するに至らなかった点である。 また、異本『義経記』(『義経知緒記』『義経記評判』)の考察は行ったが、馬場信意『義経勲功記』、都賀庭鐘『義経盤石伝』、永樂舎一水『義経蝦夷勲功記』によって、実録物や読本における《蝦夷王義経の誕生》《義経(オキクル)大明神》の深い考察までに至らなかった点もあげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の前期は、前年度仕残した、近世の蝦夷観との関係の解明、実録物や読本における《蝦夷王義経の誕生》《義経(オキクル)大明神》の思想史的考察を進め、南部・津軽の神社仏閣所蔵の伝説関連の古文書による奥州独自の「義経語り」の検証を行う。 前期のまとめとしては、江戸時代の新井白石や伴信友などの歴史意識の検証をも行い、清・元の《王権》と関わる《義経北行伝説》の成立が、知識人の《判官贔屓》と《王権》意識の一体化した形で成立したことを確認したい。 後期は、近代の《義経北行伝説》を牽引した小谷部全一郎に、平田国学の道統を継ぐ《宮地神道》の影響があることを解明して、日本近代の民族意識、国家意識(ナショナリズム)と《義経北行伝説》との関係について論じたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(1 results)