2014 Fiscal Year Annual Research Report
「科学的客観性」と「人間性」の史的研究―近代的科学性の分析
Project/Area Number |
24652013
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 祐理子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (30346051)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 科学認識論 / ジョルジュ・カンギレム / 科学的客観性 / 人間性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、19世紀を中心的な舞台として、西欧思想に確立された「科学的であること」の価値の基本構造を探ることを目指した。その際には、①近代思想における「科学的」・「客観的」という概念と、「人間的」という概念について、その内容と変遷を思想史的に分析すること、②その上で、これらの概念の間に形成された相互関係を明らかにすること、の二点を分析の主要な課題とした。この2つの分析を通して本研究は、今日の世界社会全体に及ぶ規模で、諸価値の基底部分において影響を与えていると考えられる「科学的であること」と「客観的であること」の意味の包括的な問い直しを試みるものであった。同時に、この「科学的/客観的」という概念の発展・精錬の深部で、本来的に極めて人間的な営為であった哲学・思想がいかに「人間的であること」の限界を超えようとしたかを問うことも重要な課題であった。 本研究の最終年度に当たる本年は、計画に基づき、前年度までに進めた19世紀を通じて西欧思想の中で定着した科学性への関心および科学史的叙述の方法の分析に続いて、そこからさらに展開されたものとしての、19世紀から20世紀にかけての科学認識論の議論を詳細に検討することに力を注いだ。その際には、フランス科学認識論の展開について、ジョルジュ・カンギレムを中心とし、その前史および影響の両面に着目する形で研究をおこなった。それによって、まず20世紀への世紀転換期に生じた「科学性」への強い関心が、19世紀ヨーロッパ哲学を特徴づけていたイマニュエル・カントの哲学への対応という課題から生じた人間の認識力それ自体の検討から、複雑に論理を屈曲させつつ生じたものである哲学史を辿ることができた。そしてこの科学認識論の基盤を形成する哲学史特性が、20世紀半ば以降の現代哲学の展開に「人間性」と「主体性」と『歴史性」をめぐる議論の出発点を与えたという理解にいたった。
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