2013 Fiscal Year Research-status Report
日本風土の没食子インクの開発製造と美術教育への貢献
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24652035
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
土井原 崇浩 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 教授 (00331067)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
蒲生 啓司 高知大学, 教育研究部総合科学系, 教授 (90204817)
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Keywords | 没食指インク / 羽根ペン |
Research Abstract |
■本研究は、西洋古典インク(没食子インク)をもとに、日本風土における没食子インクを開発し、美術教育への貢献をするものである。日本のデッサン(素描)は明治以降、木炭デッサンと鉛筆デッサンが主流である。インクと羽根ペンによる素描は近代の大学教育では忘れられかけている。輸入インクは大変高価である。日本国内でのインク製造を試みれば、教育の場に安価で高品質なインクを大量に供給できると着想し、西洋没食子インクの欠点を克服した和製没食指インクを独自に製造開発する事にした。西洋没食指インクの欠点〔1)ブルーブラック色の濃さが薄い。2)ブルーブラック色が年月と共に変色しビスタ色になる、3)酸化力が強く、紙が抜け落ちることがある、4)紙への付着力が弱く、乾燥後かすれ取れる〕を克服すべく製造開発する。日本風土を生かした独自のインクは、芸術へ深く貢献することのできるものであろうと考えた。研究手順は下記の通りである。1.インクの為のどんぐり種の虫こぶ採取を高知県、中国地方で行った。採取した虫こぶからタンニン酸液を加熱し、濃縮を行った。2.古代エジプトの装飾用の絵具処方(蜂蜜入り)にヒントを得て、蜂蜜をインクに添加し退色実験を行なった。3.インクの付着力強化のために膠水を混ぜる必要がある。20℃以下の外気温で使用可能な没食子インクにするために膠水のタンパク質限定分解をしなければならない。2種膠(つぶ膠、HM膠)のタンパク質分解実験のための基礎データを取り、新たな実験の処方を検討した。 4.インクがブルーブラック色として安定する中性紙・和紙の限定を行なった。また、海外学術調査(アメリカ・メトロポリタン美術館)にて、インク資料収集を行う予定であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
■25年度の研究目標は、やや遅れている。どんぐり種にできる虫こぶを調査採取したが、短所を改善した高品質の没食子インクの製造行えていない。中性紙・和紙での退色実験も行なった。1.没食子インク製造に必要な虫こぶは、岡山県で採取し、没食子インクの材料としてふさわしいものを選出した。岡山県のどんぐりの木は、今後の十分なインク製造開発にための鈴なりの虫こぶを保有してる。この木を見つけることができたことは大きな成果である。採取した虫こぶは脱イオン水を加え乳鉢ですりつぶし、濾過してタンニン酸液にし、加熱濃縮した。2.没食子インクの変色防止に、古代エジプトの装飾用絵具(蜂蜜入り)の手法を取り入れ、蜂蜜をインクに添加して退色実験を行なった。3.付着力強化のための膠水のタンパク質限定分解は、実験方法の検討をした。伝統的なアラビアゴムの替わりに、より接着力の強い膠水を使用する。20℃以下の気温で使用可能なインクにするために、膠水のタンパク質限定分解を行う予定であった。三千本膠の実験は昨年度に終えているが、つぶ膠とHM膠のタンパク質分解実験で、実験条件等を再検討したため、分解実験がなかなか上手く行っていない。4.インクがブルーブラック色として安定する中性紙・和紙の限定実験を行なった。また今後、不燃紙に於いて使用可能か否かを実験評価する。海外学術調査は行えていないが、今年度に実施予定である。昨年度の準備と成果を踏まえ、今年度はより高い成果を得られる可能性が高い。
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Strategy for Future Research Activity |
■平成25年度の研究実施計画(1,2,3,4)を継続し、且つ研究成果を美術教育の授業に導入し、生かして行く。1.没食子インクの為の虫こぶを採取し、インクの材料として相応しい虫こぶを岡山県等で採取する。採取した虫こぶからタンニン酸液を抽出し、過熱により濃縮する。2.インクの変色防止実験を行う。古代エジプトの装飾用の絵具(蜂蜜入り)に習い、蜂蜜を没食子インクに添加し、退色実験を行う。3.付着力強化のための膠水のタンパク質限定分解を行う。伝統的に使用されているアラビアゴムの替わりに、より接着力の強い膠水を使用する。20℃以下の気温低温で使用可能な没食子インクにするために膠水のタンパク質限定分解を行う。2種の膠(つぶ膠、HM膠)のタンパク質分解に酵素(コラゲナーゼ)を使用する。膠水の中の分解酵素は加熱処理により残らないようにする。温度と接着力に関係する粘度との関係を膠間で比較し、最適の条件を見つける。タンパク質限定分解した膠水の粘度を測定する。このために粘度計を使用する。上記の1、2、3が完了の後、和製の高品質没食子インクの製造を行う。4.没食子インクに中性紙を使用し、ペン画を描いているが、製紙会社により経年劣化によるインク変色の度合いが異なる。没食子インクがブルーブラックとして安定する中性紙・和紙の限定を実験により行なう。また、不燃紙に於いても使用可能か否かを実験評価する。5.美術教育授業(高知大学付属小、中学校、大学)において没食子インクと羽根ペンの素描を行い、ペン画を体感することで、その可能性や素晴らしさを伝える。また、羽根ペンのインク線における「1/fのゆらぎ」を実験調査する。さらに、海外学術調査にて、インク資料収集を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
計画していた海外学術調査(ヨーロッパとアメリカ)等の予算が使用されていない。没食指子インクの製造に必要な材料(虫こぶ)の調達に多くの時間を要した事と膠のタンパク質限定分解の実験方法の見直しなどに沢山の時間が掛かり、海外学術調査がなされなかった。 今年度は、海外学術調査等を行う予定である。
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