2012 Fiscal Year Research-status Report
国際博覧会における展示映像の記録・保存に関する研究
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24652037
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
脇山 真治 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (00315152)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | フランス |
Research Abstract |
本研究はデザイン分野で多くの成果を残してきた「博覧会の展示映像」が、博覧会の終了後にほとんど保存されておらず、所在も不明であることに着目した。貴重な映像資産を将来に向けて確実にアーカイブすることを目的としてスタートさせた。平成24年度は1970年開催の日本万国博覧会(大阪万博)における映像を主とした展示館での、展示映像ならびにその周辺情報の収集とデータベース作成であった。 資料の収集にあたり主な取材先は(独)日本万国博覧会記念機構である。理事長許可を得た上で前後3回の調査を実施した。日本万国博には国内出展館31館のうち17館が映像展示を行ったが、多くの場合は詳細の記録が保存されていないことが判明した。博覧会が国際イベントであるとはいえ、時限催事のため資料の保存についての規約がなく、したがって担当者レベルでの短期的な保存しかなされていないのが実態であった。計画書に書いたスタッフ、コンテンツ、システムの概要については、一部情報の欠落はあるものの、データ整理はほぼ完了した。 次年度の詳細調査の対象を「日本政府出展館」「電気事業連合会出展館(電力館)」「サントリー館」を計画しているため、日本館については特に留意した調査をおこなった。その結果、日本館の8面マルチ映像のシナリオに沿った連続した映像の割り付け(フィルムコンテ)が1冊のみ現存していることを発見した。さらにフィルム原版についても、永年「存在しない」とされてきたが、東京都内に保管されている情報を得ており、次年度には原版自体の存在を目視確認するところまできている。また麗水国際博覧会は4日間の取材をおこない、主たる映像展示についての現地調査を終えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、1970年の大阪万博における映像展示資料のデータ整理、ならびに麗水国際博覧会の取材が主たる活動である。映像展示関連は映像資料の保存規約がなく、多くが散逸または破棄された状況となっている。研究計画書に記した国内出展館の映像展示に関するデータは、過不足はあるものの8割程度は整理を完了した。完結できなかったのは、予想外に資料が残っておらず、結果的に国際博覧会の映像展示関連が、いかに記録・保存がずさんであったかを知ることになった。 精査した日本館の8面マルチ映像『日本と日本人』については、大阪吹田市にある(独)日本万国博覧会記念機構における調査で「フィルムコンテ」冊子を発見したことは大きな成果である。おそらく現存する唯一の完成版ストーリーボードであろう。当該作品のフィルム原版は、政府(当時の通産省)、執行代行者(JETRO)、民間製作会社との契約書が残されていないことが明らかになったため、調査許可がいずれからも得られないという事態となっている。しかし一方で契約に縛られない「自由度」もあるため、次年度にはフィルム原版にまでたどり着けると思われる。 麗水国際博覧会は、4日間の取材で30館の調査を敢行し、それぞれの提示映像の特徴や保存の可能性について検討した。麗水博覧会事務局としては「デジタルアートギャラリー」のみは終了後も継続展示するが、それ以外の提示はすべて撤去し、現時点では記録・保存の検討はなされていない。現在はすでに「デジタル」映像のためフィルム時代とは異なる問題についても想定しなくてはいけない。総じて平成24年度の計画はほぼ達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、前年度に完結しなかった「1970年映像展示のデータベース」を前半に整理を完了させる計画である(継続調査については当初計画にも記載している)。主として次の3項目について実施する。 (1)日本万国博の日本政府館映像『日本と日本人』(8面マルチ映像)、電気事業連合会『太陽の狩人』(5面マルチ映像)、サントリー館『生命の水』(6面マルチ映像)の各展示映像のフィルム原版と関連資料の所在を明らかにする。また、前年度の取材でみどり会出展の全天周映像「アストロラマ」のフィルムの一部を発見したため、この映像と関連資料の調査を追加する予定である。 (2)日本展示学会または芸術工学会において研究成果の中間報告を行う。6月開催の展示学会では「大阪万博日本館の展示映像『日本と日本人』の行方~展示映像のアーカイブに向けた調査~」の題目で発表予定で登録している。 (3)フランスの映像テーマパーク「フィチュロスコープ」を取材予定。これは世界でも例を見ない映像に限定したテーマパークであり、フィルム時代から今日のデジタル映像まで、多様な「展示映像」を扱っている。上映後の保存やアーカイブについて専攻事例として調査の対象とする。 今年度の調査の最大の目標は(1)で計画している『日本と日本人』のフィルム原版を発見することである。すでに2007年の国際フィルムアーカイブ連盟総会において「フィルムは存在しない」と発表されたが、その根拠はあいまいである。すでに東京都内に保管されていることは内偵済みである。今年度中には原版にたどりついて展示映像アーカイブに向けて今後の計画を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の予算執行については、当初計画としてはマルチ映像の擬似的な上映のための制御機、海外取材、国内出張、テレシネ(フィルムからデジタルデータへの変換)等が主たる執行項目としていた。研究計画内定後に合計140万の予算となったため、執行計画を一部調整して計画する。 執行予定の主たる項目は次のとおりである。①マルチモニターコントローラー(約60万)、フチュロスコープ(仏)取材(約45万)、国内出張(30万)、その他(5万)。テレシネについては、その後の見積りでフィルム35mmダブルフレーム(『日本と日本人』仕様)の場合、30分もの1本で約35~40万円が見込まれ、フィルム原版を発見しても、合計8本をデジタルデータに変換することはできない。したがってこれは別途研究計画を立案して予算申請の対象としたい。テレシネ作業は今年度の研究計画からは除くこととするが、国際博覧会における展示映像の記録・保存という当初の研究計画が揺らぐことはなく、3年計画の研究の根本部分は何ら変わりない。いずれにしても限られた予算で最大成果を上げるべく、適正な執行を計画している。
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Research Products
(1 results)