2012 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ヨーロッパ文学におけるトラウマ表象についての総合的研究
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24652056
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
対馬 美千子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (90312785)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田尻 芳樹 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20251746)
堀 真理子 青山学院大学, 経済学部, 教授 (50190228)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | トラウマ / サミュエル・ベケット |
Research Abstract |
1)24年度はセクションごとにトラウマ表象の問題についてベケットを軸に研究を行った。定期的に会合を開き意見交換を行った。さらに12月にJulie Campbell氏(University of Southampton)を招聘し、ベケットとトラウマについての講演をしていただき、本プロジェクトについての専門的知識の提供を受けた。2)セクションごとにみると、田尻は、文学や哲学とトラウマ研究に関して基礎的な文献を読み始めた。イーグルストン『ホロコーストとポストモダン』はいわゆるポスト構造主義の思想がホロコーストのトラウマを深く負っていることを綿密に考察したもので、参考になった。その他、ベケットとトラウマの関係について関係する最近の文献を読み、また文学研究全般とトラウマについてどのような文献があるかを調査した。堀は、主としてCaruth, Laub, LaCapra, Hermanらのトラウマ論を参考にしてベケット作品におけるトラウマ表象について考えた。特に「実際に起こった事件をそのまま維持することができない」(Caruth)トラウマは「潜在意識のなかで現実を歪曲する」(Laub)点から、ベケット作品に登場する「悪夢」とトラウマの関係を考察した。また第二次大戦前後のベケットの体験の作品への反映をみると、恋人ペギーの埋葬の謎を含めて、喪に服することができないトラウマの様相、すなわち「欠如」(LaCapra)の感覚が強く見出される点にも注目した。対馬は、主にトラウマ体験と皮膚の問題との関わりについて『ワット』におけるトラウマ表象の分析を通じて考察した。特に作品における皮膚の表面の開いたままになっている傷口のイメージに着目し、いかにそのイメージがトラウマ体験における保護膜としての皮膚を奪われた状態を示すかについて検討した。トラウマに関わるものとしてアーレントと文学についての研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)前回の挑戦的萌芽研究「現代ヨーロッパにおける痛みと共同性の総合的研究」(H21ー23年度)の延長線上で、世界的ネットワークを継続し、発展させることについては、キャンベル氏の招聘などを通して進展している。 2)また、研究資料や文献の収集、整理も順調にすすんでいる。 3)さらに、セクションごとにトラウマ表象について検討し、ベケットとの関連を探ることに関しても、各セクションにおいて研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず年度当初に、全体会を通じて、前年度の研究会を中心とした研究活動の成果をもとに、それぞれのセクションにおける20世紀ヨーロッパ文学におけるトラウマ表象の問題についての問題域を確定する。さらに、文化創造活動である文学と、現代社会との関わりを考えながら、現代社会において、表象不可能であるトラウマ的体験の伝達、聴きとり、共有の可能性について、どのような新しいパースペクティヴを与えうるかの考察を深めていく。同時に以下の作業を進める。 (1)研究資料や文献を収集し、その資料をさらに充実させ、資料整理を行う。各セクションでの研究を深めるために、研究資料や文献をさらに充実させ、入手した資料や文献のリストの整理を行う。 (2)前年度に引き続き、セクションごとに20世紀ヨーロッパ文学におけるトラウマ表象の問題について、ベケットの作品を軸に様々な角度から分析を行い、考察を深める。 (3)(2)の考察の成果を発表し、海外共同研究者との意見交換を行うための研究会を開催する。考察の成果を発表するための研究会を外部に開かれたかたちで開催し、外部の参加者との研究の交流の場として考察を深める契機とする。 (4)論文集出版の準備を進める。翌年度、3年間の研究の成果を論文集の形でまとめ、研究叢書(執筆言語は英語)として英語圏の出版社から出版するための準備を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に計上する予算は、資料や文献をさらに充実させ、資料整理を進めるための資料・図書購入費、研究補助費とコンピュータ関連用品費、研究会に招聘する海外共同研究者の招聘旅費、論文集出版準備のための研究補助費が中心となる。 また、平成24年度に購入する予定の物品の価格が予定より安価であったため残額がでたが、その分を平成25年度に図書購入費として使用する。
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Research Products
(2 results)