2012 Fiscal Year Research-status Report
帝国日本の英米文学高等教育―台北帝国大学、京城帝国大学、東京師範学校を中心に
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24652057
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
吉原 ゆかり 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (70249621)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 韓国 台湾 アメリカ / 英米文学研究 / 英米文学教育 / 東アジア / 植民地支配 / 帝国大学 / 高等師範学校 / 国際的研究ネットワーク |
Research Abstract |
具体的な内容 年間を通し、筑波大学図書館に所蔵されている高等師範学校時代の資料の調査を行った。5月7日ー14日、国立ソウル大学(旧京城帝国大学)ほかで関連資料の調査を行った。5月12日、東アジア文化交渉学会(於 高麗大学)で、「京城帝国大学、台北帝国大学における西洋文学教育」を発表した。8月14日ー23日、国立台湾大学(旧台北帝国大学)、国立図書館台湾分館などで関連資料の調査を行った。2月17日、18日研究集会「帝国日本の文学研究・教育」を開催した。韓国、台湾、日本における関連分野の現状と今後の課題についての情報交換を行い、来年度以降の研究のありかたについて意見を交換した。3月18日ー30日、アメリカ、スタンフォード大学フーヴァー・インスティチュートで、1945年以前に台湾や韓国で英語英文学教育に従事した人物たちのマニュスクリプトを調査した。 意義と重要性 高等師範学校時代の資料調査により、最新の英語教育法教育機関であった高等師範学校が、当時の世界最前線の英語教育の実験と実践を行っていたことが明らかとなったところに重要性がある。高等師範学校で英語教育を受けた植民地出身者が、卒業後出身地に戻り現地での英語教育で重要な役割を果たすというサイクルが確立されていたことが明らかになった意義は大きい。 朝鮮半島関係の調査 京城帝国大学で英文学教育を受けた人物たちのキャリアと業績についての基礎的な調査基盤を整備したことにより、当該研究を京城(当時)の植民地文化研究と、より密接に関連づけることができたことが意義ある成果である。 台湾大学英文科を始めとして、当該課題に関連した研究に従事している研究者とのネットワークが強化されたことにより、研究の可能性をさらに拡大した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
筑波大学所蔵・高等師範学校関係資料、ソウル大学、台湾大学、スタンフォード大学などでの調査を通して、東アジア地域における英米文学教育・研究の歴史的意義の調査は、着実に成果を上げて来ている。当該課題に強い関心を持つ研究者とのネットワークは、当初の予想をはるかに超えて拡大した(台湾大学英文科スタッフWei H. Kaoからの研究協力の提案など)。関係資料を紙媒体のみならず、デジタルカメラ撮影で集積しつつある。データベース化の基礎作業は期待通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
調査研究の基礎作りをさらに推進する。台湾、韓国、日本国内における調査を継続すると同時に、日本の植民地支配下(あるいは強い影響下)にあった、上海、香港、ビルマ、シンガポールにおける英米文学教育・研究についての調査の可能性を探る。 国内外の英文学研究者、植民地社会文化研究者、植民地における日本語文学の研究者など、関連分野の研究者との連携とネットワーキングを、さらに推進する。とくに、現在の国立台湾大学、国立ソウル大学の現有スタッフとの連携強化が極めて重要である。 1945年の前後をはさんで、日本の植民地で英米文学教育に従事した人物たちのうち、1.日本内地出身者 2.植民地出身者(崔載瑞など) 3. 英語圏出身の教師(G. Kerr, E. Blythなど)らの研究・教育の内容について、1945年以前ばかりでなく、それ以降についても調査を行う。これらの人物たち、とくに2と3の人物たちの、1945年以降から冷戦期における研究と動向が、日本帝国崩壊以降の東アジア地域における英米文学教育・研究に決定的な影響を与えていることが今年度の調査で明らかになっており、この方向に研究を進めることで、帝国日本が東アジア地域の英米文学研究・教育に残したさまざまな遺産について考察することができるようになる。また、本研究を英米文学教育・研究の研究にとどまらず、20世紀における東アジア地域の、知的交流の研究に拡大させていくことができる。 今年度の調査で、植民地における英米文学研究・教育を研究する場合、帝国大学などの最高学府ばかりでなく、旧制高等学校におけるそれもまた同程度に重要であることが明らかになってきた。帝国大学、高等師範学校、私立大学、旧制高等学校を視野に収めることで、より総合的な研究を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
収支状況報告書記載の次年度使用額については、平成25年度2月末~3月初めに行った九州における実地調査のための旅費として支出が確定している。翌年度分として請求した助成金については、以下のような国内・海外での調査や資料整備に充てていく予定である。 国内調査の継続。東京高等師範学校で教育を受け、卒業後出身地域(台湾、韓国など)に戻り、教育に従事した人物たちについての調査に力点を置く。 台湾での調査の継続。8月を予定。台湾大学英文科スタッフと連携をとり、国立台湾大学貴重書閲覧室に所蔵されている関係資料の調査、整理を行う。残されている資料の多くが日本語であり、そのため国立台湾大学に残されている資料は、現在のスタッフには読解が難しくなっている(国立ソウル大学についても事情は同様)。重要資料の英訳を進め、日本語を解しない人にも情報提供を行うことで、現在の英米文学教育・研究者のあいだの知的交流を促進する。 オーストラリア国立図書館での調査。12月を予定。東京帝国大学と台北帝国大学で英文学教育を行ったArundel Del Re(1892-1974)の残した蔵書・書簡の調査。 アメリカ、スタンフォード大学Hoover Instituteでの調査。3月を予定。George Kerr, J. Andersonなど、1945年の前後を挟んで日本やその(旧)植民地で英語英文学教育に従事した人物が残した、貴重資料の調査。
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