2013 Fiscal Year Research-status Report
帝国日本の英米文学高等教育―台北帝国大学、京城帝国大学、東京師範学校を中心に
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24652057
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
吉原 ゆかり 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (70249621)
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Keywords | 英米文学研究教育 / 女子教育 / 東アジア / 植民地 / 帝国大学 / 高等師範学校 / 国際研究者交流 / 台湾;韓国;オーストラリア |
Research Abstract |
1. 崔載瑞および京城帝国大学関係調査研究の継続。朝鮮半島出身で、京城帝国大学英文科出身者最高の秀才とされ、一時は京城帝国大学英文科講師も勤めた崔載瑞は、京城で刊行されていた日本語による文芸誌「人文評論」や「国民文学」の編集長として1940年代京城文壇で大きな影響力をもったが、日本からの解放以降は、親日派とみなされて冷遇され、十分な研究や資料整理が行われていない。日本支配下京城の文化文学について研究を行っている佐野正人(東北大学准教授)、長澤雅春(佐賀女子短期大学教授)とともに、崔載瑞の遺児のひとりであるYang Hi Choe-Wall氏に、オーストラリア、シドニーでインタビューを行った。「人文評論」発刊時の諸事情、日本から解放以降、朝鮮戦争時、崔載瑞氏死去前後の事情につき、詳しくお話いただき、貴重な情報を得ることができた。また崔載瑞親族、とくに女性親族が日本内地の高等教育機関で英米文学教育を受けていたことが判明した。 2. 台北帝国大学で英文学教育を担当したArundel de le Reに関する調査の継続発展。オーストラリア国立図書館でReの手稿を調査。2013 年度フーヴァー研究所で収集した資料の精読とあわせて、ReがGHQによる戦後日本の英語教育改革に大きな役割を果たしたこと、東京文理科大学(東京高等師範学校専攻科改組で成立、東京教育大学に包括統合、筑波大学前身のひとつ)で博士号取得にいたる事情、一橋大学・上田辰之助との親密な交流が明らかとなり、戦前の英米文学教育と戦後のそれの関係性について継続的に研究する必要が明らかとなった。 3. 日本支配下台北で英語教育にあたり、アメリカ陸軍省で台湾分析を担当した後、コロンビア大学の海軍軍政学校で台湾に関する民事ハンドブックを手がけたGeorge H. Kerrが、戦争末期~終戦後の台湾および沖縄での文化政策に果たした役割の調査継続発展。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1. 当初は計画していなかった、崔載瑞氏遺児Yang Hi Choi-Wall氏(80歳、オーストラリア在住)へのインタビューが実現したことにより、研究は大幅に進展した。関係者が死去もしくは高齢化しているなかで、このような聞き取り作業は緊急の課題であり、活字資料では得ることのできない情報を得ることができる。 2. 女子教育と英米文学教育に研究視野を拡大。台北帝国大学文政学部文学科出身の女性についての調査の発展させ、最初の女性卒業者である大森政壽、石本キミの台湾時代とその後についての調査が進んだ。イギリスフェミニズムの創始者・Mary Wollstonecraftについての卒業論文を作成した大森政壽は関西学院大学図書館初の女性主任となった。京城帝国大学教授であった佐藤清文庫の整理にあたっている。石本キミは戦後、福岡女子大学(本研究代表者の母校)で教鞭を執り、女性作家研究を行っている。大森や石本は台北帝国大学入学以前に、東京女子大学で教育を受けている。Choi-Wallへの聞き取りにより、崔載瑞親族を始めとして朝鮮半島出身の女性の多くが、東京女子師範学校、奈良女子高等師範学校で英米文学教育を受けていたことが明らかになっている。このように、本研究を日本帝国時代の英米文学と女子教育の関係性分析に発展していく可能性を開拓し、基礎調査を進めた。 3. 日本支配時代とその後の高等教育(とくに英米文学)との関係性の調査を拡充。GHQによる教育改革でde le Re(台北)、R.Blythe(京城)、G.Kerr(台北)らが果たした役割について基礎調査を進めた。Kerrはミシガン州立大学による琉球大学支援プロジェクト(ミシガン・ミッション)に間接的に関与。ミシガン・ミッションはヴェトナム戦争後の教育改革でも実施されており、本研究を1945年以降のアメリカのアジア文化政策研究に接続する可能性を開拓した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 26年度が本研究の最終年度にあたるため、本研究をさらに規模拡大した研究に継続していく(基盤研究(B)に応募予定)ための作業を行う。具体的には、a. 10月~2月、中規模の国際研究集会を筑波大学にて開催 b.この際の原稿を元とした論文を、日本語・中国語・韓国語・英語で出版するための準備 である。 2. 国立台湾大学に残されている台北帝国大学英文学教育・研究関連資料の調査(二回目)。現国立台湾大学教員により、全面的な協力を約束されている。本研究代表者は中国語を解せず、現国立台湾大学教員英米文学関係者には日本語を読める人物がいないため、日本語と英語を用いる本研究代表者と現国立台湾大学教員英米文学関係者との協同作業によってのみ可能となる作業である。台北帝国大学に提出された卒業論文は殊に紙の劣化が進んでいるため、国立台湾大学教員と協力してデジタル化を行う(論文全体のデジタル複製には、国立台湾大学教員による手続きが必要)。矢野峰人、de le Reなどの著作で国立台湾大学に所蔵されているものの一覧作成(英語、中国語、日本語)。台北帝国大学英文学教育・研究関係者に関する同時代資料のリスト化(英語、中国語、日本語)。5月、2週間。 3. 日本支配下東アジアにおける英米文学研究教育と、1945年以降のアメリカ主導の東アジアにおける文化政策の関係性についての調査と考察を深める。沖縄公文書館の琉球大学設立関係文書、G.Kerr関係文書の調査(7月を予定)。戦前と戦後の高等教育で用いられた作品、翻訳された作品の比較分析。1945年以降のアメリカ主導の東アジアにおける英米文学研究教育には、1945年以前に植民地で英米文学教育に携わった不とびとが大きな役割を果たしたことに注目する。これらの作業を通して、本研究を、アメリカのアジア太平洋地域文化政策研究と連関させる。
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