2012 Fiscal Year Research-status Report
英文学は科学を理解するのか―現代イギリスロマン主義研究を考える
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24652061
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
石倉 和佳 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (10290644)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | イギリス・ロマン主義文学 / 科学史 / 英文学研究 / 科学制度 / パラダイム |
Research Abstract |
平成24年度は、現代のイギリス・ロマン主義文学の研究における科学的知識の受容と評価にいかなる問題点があると考えられるかについて、具体的な科学史上の出来事や発見を踏まえて検証を行った。この検証を行うために、科学史研究の分野の研究者と交流し意見交換をすると同時に、連携研究者(中根美千代)との協議を深めた。この作業により明らかになった点は次の通りである。 1)科学的知識をイギリスの文学研究において取り扱う場合、考慮すべき点がある。まず、18世紀後半から19世紀初頭にかけてのイギリス・ロマン主義の時代が、産業革命の時期と重なっていることが、時代の科学的知識が文学者にも一般的に広く受容された背景にあることはすでに明らかになっているが、この事情はヨーロッパ大陸の諸外国とは異なっており、科学者の間の情報網が汎ヨーロッパ的に広がる一方で、イギリスでは特に科学的知識の一般的受容が加速していたと考えられる点。2)高等科学研究機関が18世紀から国家によって設置されていたフランスなどと異なり、イギリスでは科学研究における在野性が強く、同時に階級社会の構造が科学研究を推進する現場にも持ち込まれていたと考えられること。これらの1)および2)は、相互に関連しながら文学者の科学への関心の形に影響していると考えられると同時に、現代におけるイギリス文学の研究において科学的知識への言及を検討する場合にも念頭に置かれるべき点であると考えられる。これまでの英文学研究において、これらの問題点は明確に意識される状況にはなかったと考えられるが、なぜそのような事態であったのかの解明は今後の課題である。とはいえ文学テキストの持つ歴史性を明確にとらえることの重要性は今回の作業で再確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はテーマの問題点をより深めることを中心に行ったため、研究成果の発表には至っていないが、重要な論点はまとまってきたと考えられる。科学史研究においては、科学は進歩するという認識が前提となっている場合が多く、18世紀に重要であると考えられた科学的考察であっても現代科学との接点が希薄なものについては看過されがちである。そのため、18世紀から19世紀にかけての科学知の相互関係が不分明になるといった、学術上の隘路ともいえる部分が多くある点が問題であることが分かった。これは、科学史の研究も、文学研究領域からの関心において考察すると、ある種の非歴史性を露呈する場合もあることを示するものであり、これは当初十分には予見されていなかった新しい視点である。研究の目的として「17世紀以降の科学的知識を歴史的認識に基づいて正当に取り入れることが、20世紀に確立した制度としての英文学研究においては困難であること」を挙げたが、まず「科学的知識の歴史的認識」そのものが検証可能かどうかが重要となることが考えられる。この検証可能性のキーとなるのは、科学的知識にまとわりついたイデオロギー性であろうと予測できるが、そうであれば、「20世紀に確立した制度としての英文学研究」が、複線的に錯綜したイデオロギーに取り込まれた孤島のようなものであるとも仮定できるのである。本年度の研究成果によって、このようにテーマそのものが深化したことは評価できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究のテーマとしては、現代のイギリス・ロマン主義文学の研究が、対象とする文学作品が書かれた時代における科学知に対する興味関心を、どの程度検討し、またどの程度看過してきたかについて、20世紀前半に批評理論も含めて発達したロマン主義文学研究から事例をとりあげて検討する。「科学」的研究を目指した英文学研究が、手法として自然科学の研究に学びながら、自然科学分野への関心を自らの知的関心領域から排除する現象について特に掘り下げる予定である。この点については、しかるべき学会等で研究発表を行い、論文として取りまとめる。また、今年度の検討結果を、連携研究者とともに論文として発表する。そのほか、平成24年度に行ったポスター発表と同様の形式のものや、科学史研究の専門家との意見交換を主としたワークショップなどの企画を検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究経費の使用方法としては、海外発表および海外における資料調査のための旅費および経費を使用するほか、学会参加や打ち合わせ、および国内資料調査のための旅費を使用する。また、ワークショップなどの企画が平成25年度中に実行可能であれば、そのための謝金や会場設営費などが必要となる。 当初平成24年度に予定していた海外調査は、平成25年度、および平成26年度に延期した。これは、他業務との日程調整が難航したこと、科学史関係の海外協力者との連携を十分計画する時間が不足していたことから、延期に至ったものである。平成24年度の未使用額は、主にこの海外調査を行わなかったことによって生じている。現在は海外渡航の計画が順調に進み、すでにBARSでの研究発表、大英図書館の資料の事前調査などが予定されており、当初2年計画としていた調査内容をカバーしている。
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Research Products
(1 results)