2013 Fiscal Year Research-status Report
アメリカの大衆音楽と文学の創作におけるソーシャルメディアの役割
Project/Area Number |
24652065
|
Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
石崎 一樹 奈良大学, 教養部, 教授 (70330751)
|
Keywords | 教養 / 翻案 / 情報メディア / 教育 |
Research Abstract |
本年度の主な活動としては、研究計画の「3つのアプローチ」のうち、特に(2)「インタビュー」と(3)「公に対する研究成果の発表」の作業を中心に進めた。 まず(2)について、現在ユタ州のWeber State University コミュニケーション学准教授のEric Harvey氏にインタビューした。Harvey氏は米Rolling Stone、The Atlantic、Village Voice、Pitchforkなどの音楽・文化系各誌や学術誌に、インディー・ロックをはじめポピュラー音楽に関する論文や評論を多数書いている。インタビューは平成25年度11月末にユタ州ソルトレークシティーで行ない、現在の研究を中心に尋ねた。最近ではストリーミング音楽の歴史的変遷についての論文を上梓し、ソーシャルメディアのあり方にも氏は強い関心を示している。Harvey氏は音楽の実作者ではないが、本研究に関係が深い有力なバンドと広く交流しており、今回、グラミー賞を受賞したVampire Weekendなどへの仲介を取り付けることができた。またニュース番組で音楽批評家の立場からボブ・ディランのノーベル文学賞の受賞の可能性について討論・コメントするなど、文学にも造詣が深い。今後、本研究ならびに本研究から派生的に展開が見込まれる研究を進めるさいの研究協力依頼も同時に行い、了承が得られた。 (3)のこれまでの研究経過発表として、平成26年2月、JACET文学教育研究会で『ポピュラー音楽と文学の接合点について―アメリカのインディー・ロックを中心に―』という題目で講演を行った。このなかで、ボブ・ディランのノーベル文学賞の受賞の可能性に関する先のHarvey氏の米テレビニュースでのコメントを議論のスターターとして取り上げ、インディー・ロックに見られる文学性や教養主義などの特徴を、Vampire WeekendやArcade Fire、またThe Decemberistsなどの楽曲を実例としてあげて論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、One Ring ZeroのMichael Hearst氏、グラミー賞受賞アーティストのBon Iver (Justin Vernon)氏、自ら作家として文筆活動も行う音楽家のJohn Wesley Harding氏、日本にも来日経験のあるインディーズバンドであるAnathalloの元メンバーであるSeth Walker氏とMatthew Joynt氏、近年さらに注目される女性フォーク・シンガーのSharon Van Etten氏、そして音楽評論家のEric Harvey氏など、音楽の実作者や音楽評論家から、文学とポピュラー音楽の関連性に関する知見を得ることができ、インタビュー実施における成果が積み重なりつつある。このうえ、さらにサンプリングを収集する必要があるので、今後もこの活動を続けていく予定である。ただ現時点では、予定されていた目標は達成されていると考えている。 理論化の作業と研究成果の発表についても、平成26年2月に行ったJACET文学教育研究会での講演において、これまでの研究成果の整理が行えたのと同時に、平成26年度に向けての作業を具体的に進めるうえでの課題を発見することができたという点で成功しており、現時点での目標は達成されていると考える。平成26年度はさらに、印刷もしくはウェブ上での成果公開を最優先に考え、研究活動を継続する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度まで同様、インディー・ロックを中心に活動するアーティストへのインタビューを中心に研究を進めていくと同時に、理論化と成果の発表の活動を平行して進めるという点で、引き続き当初計画通りに研究を進めていく予定である。 今後の研究については、当該年度までに新たに見出された問題が、一定の方向性を示していると認識している。平成26年度2月に行ったJACET文学教育研究会での講演(研究報告)のさい、音楽業界のシステムとインディー・ロックの関係性について言及したが、このとき、文学の創作/受容の問題との関連も含めて考慮されるべき新たな問題が浮上してきたという実感を持った。この問題とはつまり、芸術ジャンルの境界線に関するものである。たとえば、ここ数年来議論されているボブ・ディランのノーベル文学賞受賞の可能性であるが、こうした話題が議論されているということ自体、翻って考えれば、ポストモダン以降議論されていた芸術の諸ジャンルの相互貫入の問題が、実際に音楽や文学作品が取引される「業界」の問題として顕現し始めているということになり、文学やポピュラー音楽を実際に創りだす「業界」の経年変化や関係性に目を向けることの必要性が、今後の本研究の課題として現れてきたと認識している。その点で、今回Eric Harvey氏や、より文学的な知見をふまえて批評活動を行っているCarl Wilson氏など、業界とつながりのある批評家/研究者に研究協力をとりつけられたのは意義深いことであると考えている。 研究の途上ながら、そもそも特に教育という観点から、ポピュラー音楽を通じて文学を見直すという本研究の性質を考えるとき、さまざまなメディア環境の変化や現代的あり方の「現実」について、教える側が更に体系的に、正確な知識を踏まえて臨む必要性を感じた。このことを踏まえて、平成26年度も研究活動を続けていきたいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成26年度に2度の米国への渡航を予定しているが、これに加え、平成26年4月末にアメリカ・ワシントン州シアトルのEMP Museumで行われるポピュラー音楽関連の主要学会であるPop Conferenceへの出席が、当該年度の11月の時点ですでに予定されていた。このため、当該年度予算の一部をこの学会出席のための費用として、平成26年度4月に使用する必要があった。 シアトルのEMP MuseumでのPop Conferenceは平成26年4月24日から27日に実施された。アメリカのポピュラー音楽と文学の関係性をさぐるという本研究の特質を考えると、本国アメリカにおいて学術面での研究協力者を確保することは極めて重要である。そのため、かねてから研究協力者の要請について受諾をもらっているEric Harvey氏と今後の研究計画について検討した他、ポピュラー音楽批評家のCarl Wilson氏、Jody Rosen氏、Chris Molanphy氏、Lindsay Zoladz氏らに研究に際しての助言を求めるなど、アメリカの研究者・批評家との人間関係の構築に務めた。本報告書作成時には、本学会に出席し、すでにこの計画を完了している。
|