2012 Fiscal Year Research-status Report
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24652067
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
竹内 修一 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (40345244)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | マルロー / コメモラシオン / 弔辞 |
Research Abstract |
アンドレ・マルローの『弔辞集』には、この作家がド・ゴールによって創設されたフランス第五共和国の初代文化相時代に行った追悼演説が収録されている。それらの演説で彼は、その場にいる聴衆とともに、あるいはテレビやラジオによって彼の声を聞くフランスの国民とともに、自分が行うのは死者たちの「コメモラシオン」(記憶の共有)であることを強調している。本研究は、公共の場で行われる追悼演説が、死者の記憶をどのように表象・再現し、それをどのような物語(=歴史)に組み込み、そうすることで、その物語を共有する共同体の統一を達成しようとするのかを、この『弔辞集』を通して考察しようとするものである。 平成24年度は、『弔辞集』に収録されたテクスト自体を分析するまえに、マルローの演説が実際にはどのようなものであったかについて、実証的な研究を行った。具体的に言えば、記念式典や葬送の様子がどのようなものであったのか、当時のメディアによってどのように報道されたのか、世論にどのような影響を与えたのか、同時代人たちがそうしたセレモニーをどのように捉えていたのか等を明らかにしようと努めた。そのために、大学の授業のない時期を利用して渡仏し、フランス国立図書館、およびマルローが追悼演説で讃えたレジスタンスの英雄ジャン・ムーランの遺品や歴史的資料が展示されているムーラン記念館(パリ15区)での調査を行った。 なお2012年8月に発行された『フランス文化事典』(丸善出版)では、「凱旋門と無名戦士の墓」および「パンテオンと文学者」の項目を担当したが、これらは、「無名戦士の墓」と「パンテオン」という、模範的な死者を埋葬する二つの近代的なモニュメント(記憶喚起装置)を通しての、フランスに於ける記憶の政治学の素描である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に於いて、初年度に取り組むことを予定していた、マルローの各々の演説が実際にはどのようなものであったかに関する調査を行うことができた。とりわけ科研費のおかげで、渡仏してフランス国立図書館およびムーラン記念館で調査をすることができたのは幸いである。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の調査をふまえて、今後は、マルローの追悼演説をとりわけ以下の観点から検討する。 1)死者人称論によるマルローの演説の分析。死者をめぐる記憶が共同体に共有されるということは、共同体のメンバーによって「三人称」の存在であった死者が「二人称」の存在になったことを意味する。「ジャン・ムーランのパンテオン葬」と題された演説を通して、ほとんどの人々にとって、とりわけその死者を実際に知るわけではない若者たちにとって関係のなかった「三人称の死者」が、フランス国民全体にとっての「二人称の死者」に転換される様子を分析したい。 2)フランスに於ける記憶の政治学の歴史に於けるマルローの演説の位置の考察。ジョアン・ミシェルは『記憶の統治』と題された研究書に於いて、王政時代から今日に至る、フランスに於ける記憶の政治学の変遷を跡づけている。そのような記憶政策の歴史に於いて、第五共和国初代文化担当大臣マルローの演説の果たした役割を考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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