教会閉鎖と霊廟開設――ソビエト政権成立期における公共空間の再編過程に関する研究

2012 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 24652068
• Research Category: Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
• Research Institution: Hokkaido University
• Principal Investigator: 宇佐見 森吉 北海道大学, 大学院メディアコミュニケーション研究院, 教授 (20203507)
• Project Period (FY): 2012-04-01 – 2015-03-31
• Keywords: ロシア / 教会 / 美術館 / 霊廟 / 文化宮殿 / レーニン / フローレンスキー / 視覚

Research Abstract

本研究は、ソビエト政権成立期の教会、美術館、霊廟、文化宮殿が視覚化するイデーについて、①教会閉鎖　②「生ける教会」　③霊廟開設　④文化宮殿構想の4つの観点から事例調査を行なうことを構想している。
初年度は主として「共産主義下の教会閉鎖」に関する事例を収集したほか、教会財産の保護をめぐるフローレンスキーの「生ける教会」論関連文献の調査を行ない、あわせてロシア国内でも資料調査を行ない、関連文献を収集した。
「共産主義下の教会閉鎖」については、①セルギエフ・ポサードの至聖三者セルギー修道院の事例を参照しながら、反宗教宣伝という形で政治化された礼拝空間について考察した。地方における類似事例についても調査を進めたが、数点の文献資料の収集には成功したものの、今後さらに資料収集を続ける必要がある。正教会における「不朽体」の概念、「科学」の視線によって聖遺骸開封を映像として記録した反宗教宣伝の事例についても文献調査を進めたが、映像資料についても今後調査を進めることが出来ないか検討中である。②一方、「生きた教会」については、フローレンスキーのイデーについて分析を行ない、教会が博物館や美術館に転用される事例を調査したほか、ソビエト政権樹立後の展示空間の特質について考察した。その過程で、フローレンスキーのミュージアム論と生活を祝祭化するアヴァンギャルドのミュージアム論との比較検討する視点の重要性について確認したことは、今後の研究の進展にとって大きな収穫となった。
ソビエト政権の成立前後の正教会に関する資料は近年刊行があいついでいるが、「教会閉鎖」に関する資料は今後も収集を続ける必要がある。今年度にはレーニン廟の建築家シシューセフの業績をまとめた資料やレーニン廟関連資料も刊行された。これら第一級の資料を入手出来たことも今年度の大きな収穫となった。今後はこれらの資料の分析を進めていくことになる。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

本研究の目的は、ソビエト政権樹立期における教会閉鎖と聖遺骸開封にともなう反宗教宣伝の視覚化の過程、さらにはレーニン没後の霊廟開設から1930年代に構想されたソビエト文化宮殿造営計画へと展開するソビエト的公共空間の構築の過程、とりわけ社会主義ユートピア理念の視覚化の過程について検討を行なうことである。
初年度に計画していた教会閉鎖と聖遺骸の開封に関する資料収集、文献調査については、一部不足はあるものの当初の目標をほぼ達成した。霊廟開設に関する資料収集についても、想定していなかった新資料の刊行もあり順調に推移している。

Strategy for Future Research Activity

平成25年度は「共産主義化の教会」に関する収集資料の分析を継続するとともに、「共産主義下の霊廟」に関する文献調査に着手する。今年度の主たる課題は、フローレンスキーの「生ける教会」という礼拝空間に対して、社会主義的理想を体現した新たな礼拝空間の形成過程について考察を進めることである。具体的には、レーニンの遺体保存、レーニン廟の開設、レーニン廟のデザイン等の問題を取り上げ、1920年代の公共空間における社会主義イデーの視覚化の過程とその特質について考察する。並行してソビエト文化宮殿建築プロジェクトに関する資料収集を行なう。

Expenditure Plans for the Next FY Research Funding

前年度残額の3366円は3月末に使用したもので、4月末に全額清算される。