2014 Fiscal Year Annual Research Report
教会閉鎖と霊廟開設――ソビエト政権成立期における公共空間の再編過程に関する研究
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24652068
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宇佐見 森吉 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (20203507)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ロシア / 教会 / 美術館 / 霊廟 / レーニン / シシューセフ / ソビエト |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度にあたる本年度は、引き続き「共産主義下の教会閉鎖」に関する事例を検討したほか、レーニン廟の設計者シシューセフの業績について調査を行なった。また、年度末には調査結果の概略をまとめ、関連する事象を年表「教会閉鎖と霊廟開設」にまとめた。 本年度、シシューセフの業績を調査する過程で特に注目したのはレーニン廟の設計者として知られるシシューセフが革命前には教会建築の領域で顕著な業績を残していることである。とりわけ、大公女エリザヴェータ・フョードロヴナからの注文により1912年に開設されたモスクワのマルタ=マリヤ慈悲修道院就寝聖堂は新ロシア様式の教会建築の代表例として名高い。聖堂は革命後、聖像修復センターとして破壊を逃れ、大公女の列聖にともない今世紀に入って修復保存も完了している。ソビエト文化宮殿の建設用地として1930年代に破壊された救世主キリスト教会がソ連崩壊後、すみやかに再建されたのと同様に、就寝聖堂がたどってきた歴史もまた、教会閉鎖と霊廟開設の問題と深く関わっている。 教会閉鎖と霊廟開設というソビエト政権樹立期に生起した事象は、ロシアにおける宗教、美術、政治、社会の各領域に生じた価値の転換を象徴する出来事である。教会は閉鎖され、教会財産は国有化される。教会が所蔵していた聖像は鑑定され、修復保存の対象となった聖像はロシア美術史の不滅の作品として美術館に所蔵される。政治指導者の霊廟が開設されただけでなく、不滅の古美術を収蔵する美術館という空間が、不死の展示空間としてソビエト政権下の公共空間に組み込まれていく。その意味で、教会閉鎖と霊廟開設はすぐれてミュージアムの問題領域にある。以上が本研究のひとまずの結論である。それではソビエト政権樹立期のミュージアムでは真正性はいかなるかたちで確保されたのか。そのことを解明することが今後の課題となる。
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Research Products
(1 results)