2013 Fiscal Year Research-status Report
<文化地霊学>からの挑戦ー免疫・タブー・徴候/周縁の<マーキング作用>の解明
Project/Area Number |
24652075
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
木原 誠 佐賀大学, 文化教育学部, 教授 (00295031)
|
Keywords | イマジナル・ライン / 免疫 / タブー / 煉獄 / 御霊信仰 |
Research Abstract |
研究の目的 本研究の目的は、医学・精神病理学の三つの概念、免疫・タブー・徴候に共通する現象、境界/周縁で起るマー キング作用に着目し、これを地霊に宿る文化の深層記憶(自己と非自己を識別する文化免疫作用)による主体的 印づけ=各文化を区分する「タブー(原義:印づけ)」の痕跡と同時に徴候(「歴史の予兆としての死の記憶」 )と措定した上で、そのメカニズムを解明することにより、死(者)の詩学の視座から政治・社会学に偏重され る今日の文化学を逆説・異化する新しい学の一モデルを示すことにある。対象地域は周縁のしるしづけ作用が今 も活発に働き、比較精神史上重要な東西二地域―1極西アイルランドの国土を二分するドニゴール/ロンドンデ リー州の国境地帯(煉獄巡礼地帯)、2極東・東国の境界・鎌倉七口切通し一帯(「地獄巡礼地帯」)である。 平成25年度の研究実施状況 平成25年度に作成した基礎理論の見取り図を吟味し、それの一部を具体的に文書化し、問題点を検討した。併せて24年度の実地調査で得られた資料を分析していく作業を行なった。鎌倉に関 する資料収集のための実地調査は8月16日~22日にかけて、「七口切通し」付近を中心に、生と死のイマジナル・ラインとしての鎌倉というテーマで、その象徴的意味・意義を調査した。 アイルランドに関する研究は 24年度に収集した資料を分析する作業に割いたが、その成果報告の一部を日本英文学会支部大会のシンポジウム:「めぐり逢う幽霊たち-近代英文学と口承の伝統(シンポジウムの企画・立案は本人による)、日本イェイツ協会第49回全国大会のシンポジウム「イェイツと老い」において発表した)。前者の発表は、Hamletの背景に潜む中世都市伝説としてのロッコ・ダーグの煉獄伝説を記号論的観点から読み解き、後者についてはイェイツの詩的イメージとしての煉獄巡礼を提示するという内容であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」の達成度に関しては、交付申請書に記載した計画にそって、概ね進展しているが、公に刊行したものが少ない点では、完全に達成していないところもある。刊行が遅れた理由は、本年度、学会で発表したものを直ちに刊行する予定であったが、検証において不十分な点に気づき、それを補うために文献の読み込みなどに時間を要したためであった。ただし、現在、口頭発表原稿を大幅に加筆、修正したものを執筆中であり、本年度中に刊行する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる本年度は、これまでの研究調査成果を統合し、従来の「文化学」を刷新する「文化地霊学」の創成のモデルとなる論文、および研究終了後直ちに単著を発刊するのが最終目標である。その際の具体的作業の中心は、およそ前年度までに構築された理論およびその方法を対象地域の調査・分析で得られた結論と照らし合わせながら、さらに検証を深めることにある。ただし、鎌倉の問題に関しては、さらに新たな調査を行なう予定である。この場合、調査の中心は現代のサブカルチャー(大衆音楽)を牽引する桑田佳祐の数々の歌詞に表現されている「もうひとつの鎌倉」を顕在化する<地霊のしるし>に求め、実地調査を行いたい。彼が30年以上にわたり大衆音楽の牽引者となった背後で働く力にはこのしるしづけ作用があると見るからである。すなわち彼の固有の視点は、現在の些細で猥雑な男女の営みのなかに、「城塞都市」としての鎌倉の在りし日の面影を二重映しにする視点(たとえば、「古戦場は濡れん坊は昭和のヒーロー」「通りゃんせ」「愛の言魂」「鎌倉物語」等)であり、そこに彼の<現代の琵琶法師>とも言うべき独自のスタンス、および形骸化を免れ今も活発に働く文化作用が顕著に見られるからである。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年の繰り越し金が残っていたため。 最終年度に向けて、旅費、書籍購入に充てたい。
|