2014 Fiscal Year Annual Research Report
ディオニュソスを中心としたギリシア・ローマ図像のアジアへの伝播・吸引の研究
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24652135
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
芳賀 満 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 教授 (40218384)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ギリシア・ローマ美術 / 仏教美術 / ガンダーラ / 東西文化交流 / ディオニュソス / スキュラ / テュケ- / 出家踰城 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度と2年度に東に伝播したギリシア・ローマ図像に係わるデータベースを作成した。その結果、伝播に係わり2つのタイプがあることが判明した。 1つめのタイプは文化伝播過程における謂わば「伝言ゲームによる劣化コピー」である。ギリシア・ローマ神話の内容が十分に伝わらないゆえにその図像も不十分にしか理解されす、東で製作された図像は意味不明の破綻部分が多くなる。ギリシア・ローマ図像の東方伝播に係わる従来の研究では、このタイプに従った東の図像の理解が主であった。つまり西の「伝播力」が強調され、東は西をただ甘受したと認識し、両文明を「西高東低」の関係と観る視座である。 しかし研究2年度から最終年度において、2つめのタイプとして、明らかにギリシア・ローマの神話内容を、東が十全に理解した上で、東において図像化されたと認識すべき作品が多々あることが判明した。例えば、ガンダーラ仏教美術におけるディオニュソス、スキュラ、テュケ-、ヘラクレスなどの神話上の神や英雄や怪獣、あるいは新疆ウイグルの仏教石窟にまで到達したアカンサスなどの図像である。例えば女神テュケ-は、運命の劇的転換を司る強力なヘレニズム時代的存在であることを東が理解していたからこそ、出家踰城図において転輪聖王から仏陀へとの釈尊の運命の転換を寿ぐ存在として描かれたのである。半神・半人の仲保者的な存在としてのヘラクレスの属性を十全に理解の上で、ティリヤテパ出土私鋳銭においてこの英雄の姿を権りて現存最古の仏像表現がなされたのである。 このタイプの発見により東西の関係は必ずしも「西高東低」ではなく「東西交流」であり、西の「伝播力」と共に東の「吸引力」の存在を認めるべきであることが判明した。そしてその吸引の最も強力な「磁場」として仏教と仏教美術を認識すべきであること、つまりギリシア文明の視座で仏教美術を解釈し理解する必要があることが判明した。
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Research Products
(3 results)