2013 Fiscal Year Research-status Report
「帝国」としての徳川日本と東北アジア―支配領域と商品生産・流通・消費の空間構造―
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24652138
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
藤田 加代子 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 准教授 (90454983)
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Keywords | 近世史 / 帝国論 / ネットワーク / 異文化接触 / オランダ東インド会社 / 銀 / 繊維製品 / 日本 |
Research Abstract |
平成25(2013)年度は、本助成研究を含む五年間の個人研究プロジェクト "Tokugawa Shogunate as a Small Empire in Eastern Asia: The Spatial Structure of the Japanese Economy and Territorial Dynamics, 1550-1850"(「小帝国」としての徳川日本と東北アジア―支配領域と商品生産・流通・消費の空間構造―)の第二年目に相当する。今年度は、助成最終年度(平成26年度)に成果を国際会議での報告や論文投稿という形で公開するため、(1)(前年度に引き続いて)日本語・英語で出版された先行研究と史資料の収集・精読、ならびにデータ整理、(2) それにもとづく論文の英語での執筆、という二つの目標を設定した。 まず (1) について、江戸時代の日本が中国・日本国内市場向け商品の生産を介して領域外に位置する異国・異域(琉球王国・蝦夷地)の経済的・政治的な包摂を志向する「帝国」的な実体であったことを実証するため、今年度は「徳川期の生産・流通構造および物質文化の変容」を小テーマとし、港市長崎・大坂中央市場を対象に、日本と琉球・蝦夷地・中国・アジアの他地域・ヨーロッパの間の商品の流れを一次・二次資料にもとづいて考察した。調査はおもに長崎と大阪で実施し、オランダ東インド会社と中国人海商の貿易と、近世大坂における長崎・蝦夷地・琉球からの輸出入品の取り扱いについて、史資料を精読した。 (2) また上記の作業から得られた知見にもとづいて、最終成果物としての英文学術書の二章分に相当する草稿を執筆した。そこで最終年度中の国際研究会議での成果報告にむけてプロポーザルを提出し、ヨーロッパ日本研究協会国際会議とアジア経済史国際会議に受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、近世アジアの経済史に関する先行研究の精読と、データの収集・整理を行なった。特に、日本経済史・日本と世界の物質文化に関する研究や関連資料のサーヴェイを重点的に実施した。また、大阪および長崎において、オランダ東インド会社と中国人海商の貿易と、近世大坂における長崎・蝦夷地・琉球からの輸出入品の取り扱いについて、史資料の調査を行なった。そして史資料の分析から得られた成果をもとに研究論文の草稿を執筆し、次年度中の成果公表にむけて国際学会にプロポーザルを提出したところ、既に二つが受理された。総じて、史資料の精査にもとづいた萌芽的研究の基盤作りと、それら中間的な成果の公開の準備については、満足すべき状況にあるといえる。 次年度の課題としては、徳川日本と同時期の世界の「帝国」に関する先行研究、とりわけ「帝国」の理論的な理解に関する文献のサーヴェイを、集中して行なう必要がある。これについては、年度後半のサバティカルを利用して先行研究を熟読・整理するとともに、海外の研究者とのディスカッションを重ねることで、達成できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次の三点を重点的に実施する予定である:(1) 過去の二年度に引き続き、近世国家に関する理論的論考ならびに世界の物質文化・グローバル経済史・日本経済史に関する先行研究の精読とデータ整理。(2) おもに夏期休暇期間・秋セメスター(サバティカル)を利用した海外・国内所在の史資料の収集とデータ整理。(3) 論文の執筆および国際会議等における研究報告。 上記のうち、(2) については、次の三つの調査を計画している。まず、東京(おもに東京大学史料編纂所、国会図書館)において日本・中国と蝦夷地・琉球との貿易に関する一次・二次資料を調査する。次に、英国図書館およびヴィクトリア&アルバート博物館(ともにロンドン)において史料調査を実施する。特にイギリスからアジアに輸出された織物製品を実見し、日本に現存する輸入品現物と関連する文書史料との照合を行なう。さらに、物質文化、とりわけ服飾・装飾文化について日本以外の事例を調べるため、ゲティ研究所およびUCLA フォウラー博物館(ともにロサンゼルス)での収蔵品の実見と、キュレーターとの討論を行なう。 また平成26(2014)年度が助成最終年度にあたることから、(3) の研究成果の口頭報告には特に力を入れる予定である。すでに第14回ヨーロッパ日本研究協会国際会議(リュブリャーナ、2014年8月)と第4回アジア経済史国際会議(イスタンブール、2014年9月)から研究発表の申請が受理されている。また年度後半の六か月間は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校に客員研究員として所属し、研究の仕上げを行なう予定である。この間に、同校の研究者と共同で近世アジアにおける貿易をテーマとしたワークショップ開催を企画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成26年度に研究の遂行および成果公開のため、ヨーロッパへの渡航二回とアメリカでの長期滞在を一回予定している。単年度の交付内定額では不足が予想されるので、次年度に繰り越すこととした。 史資料調査と国際会議における口頭発表のため、海外渡航費用と滞在費が大きな支出費目となる予定である。また研究報告原稿作成のため、複数回の英文校閲を必要とする。
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