2012 Fiscal Year Research-status Report
冷戦期オーストリアにおける人民裁判と戦犯訴追―国家反逆罪と国民問題
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24652151
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水野 博子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (20335392)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | オーストリア史 / 戦争裁判 / 集合的記憶 / 国家反逆罪 / 戦争の記憶 / 国民問題 / 国民国家 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
平成24年度は、第一に、オーストリア国民論の思想的特徴について調査を進めた。とりわけ、ドイツ人か、オーストリア人かという帝政期以来の国民問題について、政治的実践と理論の双方から整理し、帝政末期から戦間期に至るまでの各政治勢力、a)キリスト教社会運動、b)社会民主主義運動、c)大ドイツ国民主義運動にみられる(ドイツ)国民思想の特徴について検討した。また、第二次大戦後の冷戦対立に重要なオーストリア共産党のオーストリア国民論の系譜について、戦間期に構築されたアルフレート・クラールの理論を中心にスターリン型共産主義とも関連付けながら調査した。 第二に、上記のような政治的潮流との連関性において、オーストリア人民裁判における国家反逆罪の位置づけを確認した。とくに、オーストリアの戦犯訴追全体において国家反逆罪がどのような意味を持ったかについて、戦犯訴追規定の制定及びその政策決定過程にみられる政治的議論、メディアに見られる世論の反応に着目して精査した。また、ウィーン人民裁判所の動向に加え、特に国家反逆罪の訴追が多かったリンツ人民裁判の実態にも注目し、さまざまな角度から原史料を基に歴史的に検討した。これらの調査を分析、総合した成果の一部として、1.「戦後初期オーストリアにおける戦犯追及―占領軍当局による訴追を中心に―」(言語文化共同研究プロジェクト2011、大阪大学大学院言語文化研究科)23-36、2.「戦後オーストリアにおける戦犯追及のゆくえ――国家反逆罪と人民裁判――」『歴史学研究』896号(2012年9月号)、1-21、52頁を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度の研究の第一の目的は、オーストリア国民論の思想的特徴について調査することであった。帝政期以降のオーストリアでは、大きく分けて3つの潮流が重要であったため、まずはそれらを調査した。また、1930年代以降は、オーストリア共産党の国民論も第二次世界大戦後の政治文化の行方を規定した点で調査を必要とする課題であったため、これについても研究を進めた。そして、ドイツ人か、オーストリア人かという帝政期以来の国民問題をどのように克服しようとしたかという視角から、政治的実践と理論の双方において整理し、検討を深めた。 このような政治的潮流との連関性において、第二に、オーストリア人民裁判における国家反逆罪の位置づけを確認した。とくに、オーストリアの戦犯訴追全体において国家反逆罪がどのような意味を持ったかについて、戦犯訴追規定の制定及びその政策決定過程にみられる政治的議論、メディアに見られる世論の反応に着目して明らかにした。その過程で、来年度以降に本格的な調査を開始する予定であったオーストリア国内に内発的に生じた「冷戦」の問題にも踏み込んで検討する必要性が生じ、一部計画を先取りして検討を進めた。その結果、内発的な冷戦の象徴として「国家反逆罪」が再解釈される論理と政治実践のありようを解明した。 これらの調査を分析、総合した成果の一部として、1.「戦後初期オーストリアにおける戦犯追及―占領軍当局による訴追を中心に―」(言語文化共同研究プロジェクト2011、大阪大学大学院言語文化研究科)23-36、2.「戦後オーストリアにおける戦犯追及のゆくえ――国家反逆罪と人民裁判――」『歴史学研究』896号(2012年9月号)、1-21、52頁を発表、高い評価を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、24年度の研究成果を踏まえて、さらにオーストリアにおける戦犯追及のありようを、国民問題とナチ・戦争責任の問題の結節点ともいうべき国家反逆罪の視点から歴史的に検討し、戦後の国家再建を担う政治エリートたちが、いかにして国民問題とナチ・戦争責任問題の両方を解決しようとしたのかを引き続き解明する。そのため、第一に、ウィーンの中央政府の政策展開について調査を継続するとともに、国家反逆罪の事例が多い地域(特にリンツとウィーン)の裁判史料を中心に調査を進める。 第二に、人民裁判の訴追状況に対する地元メディアの反応を前年度に引き続き調査する。とくに各連合国占領下の地域における人民裁判への反応を精査する。特に米占領下のリンツ、ザルツブルクが中心となるが、後述する第四点目との関連で、計画をさらに発展させて、フォアアールベルクにおける調査も開始する。その際、各地域の特色に目を配りながら、戦犯訴追をめぐる集合的記憶の問題も視野に入れて分析を進める。 第三に、1945年~1955年における人民裁判訴追とこれに対する「冷戦」の影響について引き続き検討する。 最後に、ドイツ国民か、オーストリア国民か、という課題と国家反逆罪を結び付けて考察する際に浮上する地域的偏差の諸相を調査する。これらの調査を効率的に進めるため、本年度もウィーン市のオーストリア国立文書館及び同国立図書館、上オーストリア州立文書館及びリンツ市立文書館などを訪れて、史料文献収集を行う。また、国家反逆の訴追政策にみられる地域的偏差の実態とその背景について調査するため、他地域(とくにフォアアールベルクやブルゲンラントなど国民を規定する論理が歴史的に上オーストリア、ウィーンとは異なる地域)に赴き、図書館・文書館における資料収集を行う。25年度は中間発表として国内外の研究会で研究成果を発表するとともに、英語による論文の発表を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第一に、裁判資料調査のために、上オーストリア州立文書館及びリンツ市立文書館を訪れる。またオーストリア政府当局の政策方針を調査するため、ウィーン市のオーストリア国立文書館及び同国立図書館も訪れて、史料文献収集を行う。そのほか、リンツ州立文書館・図書館、ザルツブルク州立図書館、並びにフォアアールベルク州立図書館・文書館においても新聞メディアなどを中心に調査する。調査地が数か所にわたることから、夏季あるいは冬期に3週間程度、現地調査に訪れる。 第二に、国内外での研究会における中間報告を行い、研究交流を活発に行う。そのための旅費が必要となる。 第三に、成果の一部を早い段階で世界に発信するため、英文による論文発表を行う。そのための英文校正費が必要となる。 第四に、調査に必要なモバイルコンピュータ、高解像度のデジタルカメラ、電子情報処理のためのスキャン複合機、プレゼンテーション用の器材一式(投影機、ポインターなど)の購入が必要となる。
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Research Products
(2 results)