2014 Fiscal Year Annual Research Report
冷戦期オーストリアにおける人民裁判と戦犯訴追―国家反逆罪と国民問題
Project/Area Number |
24652151
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
水野 博子 明治大学, 文学部, 准教授 (20335392)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | オーストリア / 戦争犯罪 / ナチズム / 人民裁判 / 冷戦 / 国民統合 / 過去の克服 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度の平成26年度も、前年度までの調査結果を踏まえて、第一にウィーンの中央政府の政策展開および同時代の新聞メディアにおける反応を調査し、冷戦が発生する内的要因と絡めながら国民統合の論理とメカニズムを検討した。とりわけ、国内政治勢力の配置の再編過程で生じた冷戦が、戦犯訴追の形骸化を促進したうえ、親ナチ/大ドイツ主義的な政治勢力の社会統合及び、それと同時並行的に進められた非妥協的で異なる政治思想を追求した左翼勢力の排除が正当化される論理のイデオロギー的基盤を考察した。データの補完と実際の裁判に関する動向を調査するため、ウィーンの国立図書館を訪れ、史料収集にあたった。また、こうした作業を整理し、前年度までの調査結果を総合した。その結果得られた知見を要約すると、おおむね次のとおりである。 1.戦犯・元ナチの免罪のプロセスが西欧型のオーストリア国民の統合を支える論理を補完・構築する役割を果たした。 2.人民裁判において大量虐殺(ユダヤ系の人びとやロマの迫害を含む)をめぐる訴追が不十分だった歴史的理由の一つは、西欧型国民統合の論理それ自体に、戦犯・元ナチの免罪のイデオロギーが内在していた点にある。 3.「過去の克服」論は、ヨーロッパ民主主義を前提とした冷戦期のイデオロギーの産物であるとともに、西独が西欧に統合される過程で自己内面化した(オーストリアもこれに追随)西欧中心主義的な価値規範であり、冷戦期にみられた国民統合の論理の一面を説明する政治概念ではあっても、民主主義の問題を普遍的・発展的に考察するための歴史概念ではない。 以上の研究成果の一部は、『教養のための現代史入門』(小澤卓也・田中聡との共編著)等に反映させた。
|