2012 Fiscal Year Research-status Report
回転施文の特質から導く縄紋の同定研究-同時期製作の土器を特定するための基礎研究-
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24652157
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
宮原 俊一 東海大学, 文学部, 講師 (50297206)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 縄紋 / 原体 / 回転圧痕 / 方形周溝墓 / 土器製作 / 同時性 |
Research Abstract |
本研究は、複数個体の土器に同一原体によって押圧された縄紋を特定することで、土器製作における同時期性を実証する基礎研究を確立することを目的としている。 平成24年度は、研究代表者が籍を置く東海大学の所蔵資料(王子ノ台遺跡)に加え、近隣4遺跡から出土した計74個体の完存資料(またはほぼ完存)について分析をおこなった。分析資料はいずれも弥生時代の方形周溝墓から出土した壺形土器である。比較・同定研究は次のように進めた。 まず、土器装飾として残る縄紋について、縄縄原体の撚りの方向や大きさなどを肉眼観察で判別し、資料の大別・統合を行い、CCDカメラ搭載の実体顕微鏡による観察に基づき、同一原体による資料の候補を特定した。対象とする資料はデジタルカメラを用いて縄紋の接写撮影を行い、画像の歪み(収差)をパーソナルコンピュータで補正した。拡大画像(10倍・20倍)を写真用紙とOHPフィルムのそれぞれに印刷し、後は絵合わせの要領で縄紋を個体間で比較した。拡大画像における比較では縄紋の大きさや形状はもとより、節内部の繊維配列や特徴的な痕跡などを根拠に、同一原体による縄紋を特定していった。 分析の結果、対象資料74個体中、17個体(2個体間7組、3個体間1組)の土器について、同一原体による縄紋が別個体に認められ、それぞれの組において土器が同時期に製作されたことが明らかとなった。さらに、対象とした資料がすべて方形周溝墓出土ということもあり、ほとんどの事例が同一遺構からの検出となるが、遺構を異にする出土事例も2例(2組)確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は分析対象(選定資料)200個体を目標値として研究を進めたが、実際には74個体と目標値を大きく下回った。その主な理由として、①選定資料の残存度合い(遺存率の低さ)、②縄紋の磨耗・欠失、③比較時における拡大画像および画像の処理能力などがあげられる。 ①については発掘調査報告書等によって事前に選定資料を絞り込み、実見調査に臨んだが、報告書中の実測図では残存度合いを把握できず、実見調査の際に選定資料から除外される資料が多くあった。②については完存資料であっても(または、実測図の復元が精緻であっても)、土器表面の磨耗等により縄紋が鮮明に観察できない資料があり、資料数が限定されてしまった。③は技術的な問題となるが、資料撮影で用いたデジタルカメラが深い被写界深度を持たないコンパクトカメラであったことに起因し、パーソナルコンピュータ上での収差補正に予想外の時間を費やした。 本研究は、より客観的な証左をもって製作時の同時性を実証することを目的としており、上記①・②について、多くの資料を分析対象から除外したため、目標とする個体数を大きく下回ってしまった。③の収差補正については、時間の短縮化・省略化を図る努力は試みたが、撮影画像そのものに限界があり、また、過度の補正は避けるべきとの判断から、再撮影を余儀なくされたケースもあった。 分析資料数からみれば、現在までの進捗状況は決して芳しいものではない。ただ、研究全体のロードマップに照らし合わせれば、分析資料数が少ない中でも17個体(8組)の土器について、同一原体による縄紋を特定できたことは大きな成果といえる。今後は可能な限り分析資料を増やし、本研究計画を全うしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
分析資料については当初の目標値に近づくまで選定を継続する。その際、事前調査と実地調査時のギャップを埋めるため、資料の残存率についてはその基準を引き下げ、明らかに同一個体片と判断できない資料については1個体として資料を選定していく(当然ながら小破片はこれに加えない)。このように対処することで、これまでの実見調査で除外した資料についても、あらためて分析する余地が生まれ、分析資料数も増加するものと考えられる。 また、資料撮影の段階ではマクロレンズ搭載カメラを利用し、画像処理には多焦点合成を可能にするソフトウェアを導入することで、収差補正に要する時間を軽減していく予定である。 こうした方策をもって初年度のロスを取り戻し、研究を円滑に進めていくが、当初から予定していた計画も同時に実行する。 まず、二次元情報では読み取れない縄紋原体の特徴を明らかにするため、各種土器の縄紋を型取り(レプリカ製作)し、本来立体物である原体を再現した上で、実資料との比較観察を行う。さらに、原生植物(カラムシ・アカソ・シナ・クズなど)より繊維を採取し、これを利用した縄紋原体を製作した上で、素材の強度や硬軟度、撚りの強弱に見られる圧痕の相違を把握する。これは、材質の違いによって縄紋がどのように変化して表出されるかという基礎データを収集する目的で行う。これらの作業では、研究補助員として学部学生を動員する予定である。 以上、レプリカ製作と原生植物による縄紋原体での実験結果を踏まえ、分析資料(接写画像)の確認作業を行う。そして、本研究の最終段階として、明らかに同一原体を用いた複数個体の資料については、出土状況などを再点検した上で、資料解釈を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品については、深めの被写界深度を確保することができる接写専用マクロレンズとこれが搭載できる35㎜相当のデジタルカメラの購入を計画している。また、資料収集を目的とした実地調査においても、撮影した画像が確認できるよう小型端末(ノートパソコン)の購入も考えている。その他、消耗品については、画像を印刷する写真用紙とOHPフィルム、レプリカ製作用樹脂のなどがあげられる。 平成24年度の研究では、分析対象とする資料が当初の目標値にまで達しなかったことにより、比較・同定作業にあたる研究補助を動員する必要がなくなった。そのため、平成24年度から平成25年度へ助成金の繰越が発生した。この繰越金については、平成25年度でも継続して分析する資料の比較・同定時に動員する研究補助への謝金等に使用する計画である。また、レプリカ製作および原生植物を利用した縄紋原体製作についても、研究補助員として学部学生(1名程度)の助力が必要なことから、100,000円ほどの謝金を見込んでいる。 この他、資料収集のための旅費(国内)および成果報告用の小冊子印刷費を計上している。
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Research Products
(1 results)