2012 Fiscal Year Research-status Report
市民に分かりやすい民事関連法律用語の言換えに関する研究
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24653003
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
大河原 眞美 高崎経済大学, 地域政策学部, 教授 (40233051)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
RICHARD POWELL 日本大学, 経済学部, 教授 (30277371)
田中 牧郎 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (90217076)
金光 寛之 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (90514258)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 法律用語 |
Research Abstract |
本研究では、重要な難解な法律用語(問題語)を抽出して、法曹と市民の理解を阻んでいる法律用語を法学領域から特定して、市民の目線からの解説や言い換えを提案することにある。平成24年度は、法実務家へのアンケート調査と語彙調査(コーパス調査)を行った。 1、アンケート調査 法実務家(弁護士・司法書士)のアンケートの調査項目を検討した。性別、年齢に加えて、業務歴(弁護士の場合は司法修習の時期)、今後の研究協力の可能性の有無も問うた。依頼人や当事者とのコミュニケーションで理解が難しい法律用語を3語程度挙げてもらい、説明の工夫等についても自由回答してもらう調査にした。地方都市と首都圏の地域間のバランスをとるために、裁判官と弁護士については、群馬民事研究会でアンケート調査(平成24年9月28日、回収枚数17件)を行い、司法書士については2回に亘る研修会等でアンケート調査(平成24年9月8日と15日、回収枚数31件)を行った。アンケート調査結果から51語を重要な難解な法律用語として抽出した。 2、語彙調査 コーパスに基づく分類では、『日本法への招待 第2版』(松本他、2006)に提出されている民法用語234語をリスト化した。この234語について、国立国語研究所編『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)を検索ツール『中納言』で検索し、検索結果をダウンロードした。ダウンロードしたデータの出典情報をもとに、法律分野の用例と非法律分野の用例が占める比率を語別に算出した。非法律分野の用例数の比率が50%未満のものを第一のタイプ、50%以上のものを第二のタイプに分類した。第一のタイプは、用語リストとその言い換え・説明集の形で指針を示していくことが考えられるが、第二のタイプは、用語リストと言い換え・説明集を示すだけでは不十分で、用語法についてもっと踏み込んだ運用の指針が求められるので、事例研究を始めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
法実務家対象のアンケート調査から、実務家の捉えた問題語とその対応策まとめた。コーパス調査では、抽出された用語と用法について、類型化を始めた。よって、当初の研究計画に沿って進展している。 アンケート調査で、司法書士と弁護士の間には、問題語について若干の異なりが見られた。司法書士は、「遺産分割」「相続放棄」「共有持分」「登記識別情報」「管財事件」「債務名義」「同時廃止」を問題語として挙げた。弁護士は、「瑕疵」「宥恕」「特別受益」「信義則」「悪意」「故意」「債権と債務」「被相続人」「申立人」「相手方」などである。対応策としては、具体的に説明している場合が多く、使わないようにしているという回答もあった。 コーパス調査では、BCCWJの検索結果によって分類したタイプの中で、第二タイプ(非法律分野の比率50%以上)の中から事例研究を始めた。具体的には、各語の辞書記述の比較(「明鏡国語辞典」と「有斐閣法律用語辞典」)、法律分野と非法律分野の語義の比較、品詞構成である。例えば、「故意」の場合、法律分野では70.2%が名詞の用例であるのに対し、非法律分野では名詞用例は33.5%で、副詞が58.0%と副詞の用例が多い。日常語と法律用語が同一語であっても、その内実が異なっていることが推測される。日常語と語義の違いが大きい法律用語を市民に説明する場合は、その違いに注意を喚起する工夫が必要である。「故意」のように、法律用語と日常語の語義の異なりが明確な用例もあるが、「錯誤」のように、法律用語(意思とその意思が表れた行為が一致しないこと)と日常語(思っていることと事実とが一致しないこと)のように、重なる部分が多く、連続性の強い用例もある。その連続性を活かす工夫もまた重要であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
1、リスト化した民法用語234語から、非法律分野の比率が低い順選んだ98語に絞って、語源分析を行う。第一タイプは、「先取特権」「地役権」「留置権」「物権」「債務名義」「地上権」「遺留分」「供託」「賃借権」「法律行為」「執行文」「連帯保証」「登記」「登記所」「代位」「弁済」「賃貸権」「法廷代理人」「抵当権」「質権」「催告」「寄託」「公告」「相続人」「不作為」「登記簿」「占有」「相続分」「所有権」「請求権」「履行」「債権」「不法行為」「正当防衛」「損害賠償」の35語である。第二タイプは、「債務」「時効」「親権」「追認」「後見」「取消し」「遺贈」「過失」「精算」「引渡し」「相続」「担保」「離縁」「委任」「免責」「嫡出」「約款」「持分」「血族」「相殺」「故意」「無効」「不動産」「利息」「約定」「異議」「和解」「承諾」「意思」「契約」「保証」「悪意」「解散」「動産」「元本」「離婚」「配偶者」「善意」「養子」「戸籍」「添付」「撤回」「法人」「解除」「扶養」「給付」「委託」「有価証券」「利率」「売買」「理事」「慰謝料」「錯誤」「組合」「混同」「解約」「詐欺」「請負」「雇用」「着手」「共有」「申込み」「認知」の63語である。 2、第二タイプについては、辞書記述、語義比較、品詞構成の分析を引き続いて行う。 3、アンケート調査とコーパス調査の結果を結合して、問題語の法律用語の類型化を進める。特に、合成語の用例が法律分野では非法律分野の2倍もあるので、言い換えの解説の一助となるような合成語の類型化を試みる。 4、98語について、具体的な行為や場面に即した説明や語源の情報も入れ、「一定の結果」「認容する」などの用語を避け、市民にわかりやすい解説をする。解説にあたっては、特に、「一定の結果」「認容する」などの用語を避けるなど表現に注意する。 5、98語の解説を論文にして報告書を作成し、紀要にも登載する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は研究の終了の年度であるので、前年度に比べて図書費を縮小し、報告関係の経費を増加させている。およそ100語の解説を試みているので、頁数の関係で紀要の一号での掲載は無理と思われるが、紀要での連続しての投稿を考えていきたい。それが無理な場合は、報告書の部数を増やして対応したい。 1、図書費(15万円)については、語源、分析研究関連の書籍を購入する。配備先は、高崎経済大学、国立国語研究所である。(@5万円×3人=15万円) 2、国内旅費(30万円)については、研究の打ち合わせや、分析結果について司法アクセス学会や社会言語科学会等の国内学会で報告する旅費である。司法アクセス学会第7回学術大会(12月7日)では、「ことばとコミュニケーション」というテーマで、法律用語が市民の司法アクセスを妨げる要因の一つであるという観点からの企画であることが決定している。研究打合せ旅費(@1万円×2人×5回=10万円)国内学会旅費(@5万円×2人×2回=20万円)。国外旅費(50万円)については、分析結果について、Law & Society(アメリカ、ボストン)やForensic Linguistics(メキシコ、メキシコシティ)等の国際学会で発表し、海外の研究者と意見交換するための旅費である。国際学会旅費(@25万円×2人=50万円)。 3、謝金(35万円)については、コーパス分析補助者と分析の統合作業の謝金である(@8千円×44日=35万円)。その他については、打合せの会議費と報告書作成にかかる経費である。(会議費5万円、通信費5万円、印刷費10万円)。
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Research Products
(39 results)